Ⅺ 襲撃からの脱走

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「あの……? これはだいぶ……いただけないですよ?!」  ときめき通信お得意の、捏造(ねつぞう)記事である。執務室で愛を育んだ二人は、近々婚姻を発表する――という内容が、甘ったるく書かれているものだ。 「もうこれ、『セルシア』の権力使って出禁(できん)でよくないですか?! 執務室で愛とか育んでたら仕事回んないじゃないですかただの迷惑!」  顔を赤くして怒る主は、官能的な記事の書かれ方のほうに問題を感じているように見えた。ときめき通信によれば、サクラはフューリアと接吻までは済ませていることになる。 「騎士たちが何人もいる前で、こんなことしないでしょフツー……」  ぼやくように言ったサクラに、エラルが突っ込む。 「貴族令嬢は、護衛の前では事を進めるそうだ」  それに、サクラが心底嫌そうに眉根を寄せて目を見開いた。 「え? 進めちゃうんですか? この世界の恋愛って公開処刑……?」 「オルゴンも精霊もついているし、そなた自身四六時中見張られているのを嫌がるから付けられてないようだが、身分が高ければ高いほど、常に護衛はいるものだ。壁だと思えと言われて育てられる」 「それは……お疲れ様ですねえ……」  忠告を受けているのに他人事のような感想が述べられ、エラルが呆れた顔になる。 「貴族は時に、獰猛だ。ハーシェル王はだいぶ(ぎょ)してきたが、まだすべてではない。セルシアとしてそなたも多くの意識を(くつがえ)したが、まだ見縊(みくび)る者もいる。……気を付けることだ」  美しい顔に凄まれて、サクラが「はい」と神妙な表情で返事をするのに、ガゼルはときめき通信を引っ込める。ページをめくれば、この号にはほかにも、サクラに言及した記事があるのだ。どうでもいいので放ってはいるが、この通信記事だけなら、サクラは恋多き魔性の女と化している。自分の役どころがまた増えたと、喜ぶ……ことはないだろう。
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