Ⅺ 襲撃からの脱走

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 午後の予定までをすべてこなし、サクラが執務室から退室しようとしたそのとき。  バリン! とガラスが割れ、ガゼルはとっさにその方向から庇い、サクラの盾となった。投げ込まれたのは、重りのついた矢。即座にファロが外を確認するも、放った人物の影も見えない。 「現地の確認に参ります」 「いや、いい」  ファロが申し出たのを、ガゼルは止める。 「サクラ様に怪我はない。今日は騎士の数も少ない。サクラ様から離れるな」  急な作戦だったからこそ、今日、騎士団が手薄になることを、フューリアが知っていたとは考えにくい。だがあちらも、ずっとこちらの動きを監視していたとしたら。騎士団が一斉に不在になることは、奴にとっては絶好の機会だろう。さらに騎士が離れるような事件を撒いてゆけば、サクラを一人に出来ると踏んでいるかもしれない。そこを襲えば、彼の「賭け」は成功する。  サクラが無事でいるなら、小さな事件は捨て置く。  ガゼルはそう心に決め、急ぎ最奥へとサクラを連れて歩いた。  サクラは何かの罠が仕掛けられている可能性を読み取ったのか、説明を求めることもなく、黙って早足で歩く。イリューザーも張り詰めた空気で以て、主君の横に添って動いた。  最奥までの道のりの、なんと長く感じられることか。  鍵を開けると四人は中へと入り、騎士たちは部屋に異常がないかを簡単に確かめる。 「食事を、手配して参ります。エラル補佐官と護衛にも、このことを告げてきます」 「それから、ラグナル団長にも」  ケシュフェルが言ったのに、ガゼルが付け加えた。 「手を借りよう。ラグナル団長はあいつの危険さを承知している。クレイセスたちはすでに出ているし、こちらで防ぐしかない」 「承知しました」  騎士団同士、反目しているわけではないが、手を取り合うこともない。しかし今は、恐らく非常事態だ。
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