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午後の予定までをすべてこなし、サクラが執務室から退室しようとしたそのとき。
バリン! とガラスが割れ、ガゼルはとっさにその方向から庇い、サクラの盾となった。投げ込まれたのは、重りのついた矢。即座にファロが外を確認するも、放った人物の影も見えない。
「現地の確認に参ります」
「いや、いい」
ファロが申し出たのを、ガゼルは止める。
「サクラ様に怪我はない。今日は騎士の数も少ない。サクラ様から離れるな」
急な作戦だったからこそ、今日、騎士団が手薄になることを、フューリアが知っていたとは考えにくい。だがあちらも、ずっとこちらの動きを監視していたとしたら。騎士団が一斉に不在になることは、奴にとっては絶好の機会だろう。さらに騎士が離れるような事件を撒いてゆけば、サクラを一人に出来ると踏んでいるかもしれない。そこを襲えば、彼の「賭け」は成功する。
サクラが無事でいるなら、小さな事件は捨て置く。
ガゼルはそう心に決め、急ぎ最奥へとサクラを連れて歩いた。
サクラは何かの罠が仕掛けられている可能性を読み取ったのか、説明を求めることもなく、黙って早足で歩く。イリューザーも張り詰めた空気で以て、主君の横に添って動いた。
最奥までの道のりの、なんと長く感じられることか。
鍵を開けると四人は中へと入り、騎士たちは部屋に異常がないかを簡単に確かめる。
「食事を、手配して参ります。エラル補佐官と護衛にも、このことを告げてきます」
「それから、ラグナル団長にも」
ケシュフェルが言ったのに、ガゼルが付け加えた。
「手を借りよう。ラグナル団長はあいつの危険さを承知している。クレイセスたちはすでに出ているし、こちらで防ぐしかない」
「承知しました」
騎士団同士、反目しているわけではないが、手を取り合うこともない。しかし今は、恐らく非常事態だ。
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