Ⅺ 襲撃からの脱走

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 ガゼルは、フューリアがどうするかを考える。自分なら、ここをどう攻略する? 守りを薄くするには? サクラの抵抗をなくすには……?  考えたときに、あまりまっとうな方法ではないやり方が浮かび、自分の人間性を自分で疑いたくなった。しかしだからこそ、それに備えておこうともなるのだが。 「ケシュフェルさん、大丈夫でしょうか……? 調理場行って、受け取る用意して、エラルさんとこ伝えに行って、ラグナルさんに話しに行って……それからまた調理場行って、食事を受け取って戻ってくるんですよね? かなり、時間かかりそうですね。こういうとき、広いって不便」  やり場のない緊張感に耐えかねたのか、サクラが明るい声で言う。 「ハラ減りますよね。すみません」 「え? 心配したのはそこじゃないんですけど。それはみんなもそうですし。あ、今日はお風呂もやめときます」 「ご不便おかけして、申し訳ありません」  サクラからの申し出を、ありがたく享受する。狙われるとしたら、移動中。しかも無防備になる入浴は、最も危ない。  騎士団の捕り物が終わるのは、早くても夜中だ。賊が出てからの勝負だから、相手の出方次第では、戻るのは明け方になる。  イリューザーが不意に扉を振り向き、頭を低くする威嚇の姿勢をとった。ほぼ同時に、ファロが扉を施錠する。 「フューリア含め、計十二名」  扉の端、上に小さく設置されている覗き穴から確認した数を、低めた声で報告され、ガゼルは「来たか」と眉根を寄せた。フューリアが雇用したと報告された人数の、倍以上。しかし最奥には、サクラを逃がすための通路などがない。隠すための小部屋もない。  緊張の面持ちのサクラを、ガゼルはなるべく扉から離そうと、部屋の中央まで後退させる。  そのとき、ガチャリとドアノブが回された。開かないことがわかると、ガチャガチャと苛立つように何度も回される。そうして。 「こんばんは、サクラ様。いらっしゃるのはわかっています。手荒なことはしたくありません。私どもを、中にお招きいただきたく」  猫なで声の、フューリアの声がした。
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