Ⅺ 襲撃からの脱走

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「ファロ。先に下へ」  ガゼルが言うと、ファロは頷き、即座に窓から飛び出した。 「イリューザー、行ける?」  ダァン! と何度目かの体当たりをする音に、蝶番(ちょうつがい)が危ないかな、とガゼルは扉を見る。イリューザーは窓から木に向かって飛び出し、一度幹を蹴ってから雪の積もる地面へと着地した。 「サクラ様」  ガゼルの呼びかけに頷くと、サクラは履いていた靴を脱いで先に窓から落とす。受け止めようとしているファロに「どいて!」と言うなり、ドレスの裾を抱え込むと、なんの躊躇もなく飛び降りた。  とさ、という着地音とともに、冷た! と声が聞こえ、ガゼルはとりあえずの無事に胸を撫でおろす。そして窓枠に手をかけると、ガゼルも外に出た。狭い足場を堪え、窓をきちんと閉めてから下へと飛び降りる。扉を破っても、窓が開いていなければ、隠し部屋なり通路なりを探すだろう。普通の令嬢はから、この脱出は想定されていないはずだ。  靴を履きなおしたサクラが、「行きましょう」と走り出す。ガゼルは「こちらに」と、王統院への最短距離を、先導した。  あいつらを捲ければいいのだ。わざわざ外を行く必要はない。常から空いている部屋、繋がっている通路、使用人専用の裏道……幼い頃から慣れ親しんだ王宮は、ハーシェルとの追いかけっこや隠れんぼに駆け回った遊戯場だ。ガゼルの頭の中には、体感で(えが)き出した見取り図がある。 「ここどこ?!」  サクラはすでに城の位置関係がわからなくなったらしく、彼女の目いっぱいで走ってきた足が止まった。 「もう少しです、サクラ様。抱えましょうか」  息の上がった主君をうかがえば、彼女はガゼルに手を差し出した。 「抱えなくていいけど、引っ張って欲しいです。まだ走れるので。でも、ガゼルさんの速度に、ついていけてないから」  はあはあと息を整えながらそう言うのに、「承知しました」と小さな手を取る。再び走り出したガゼルが手を引くサクラは、走れると言っただけあり、引くのも軽い。うしろをファロ、さらにそのうしろを、イリューザーが護っている。
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