Ⅻ 雪に轟く銃声

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 積雪も、降る雪も。  光響をしながら広がっていくのに、サクラは想いの丈を祈りに込める。夜の闇と雪の中で、眠っているかのような木立も、歌に合わせて光響を起こし、いくつかの大樹が、金色の螺旋を纏ったのが見えた。  もう大丈夫。  サクラは土地の声を聞いた気がして、静かに歌を終わらせる。 「帰りましょう」  夜を虹色に照らしながらサクラが言ったのに、残っていた騎士たちが頷いた。 *◇*◇*◇*  初日の天候は、よく晴れた。そのため、雪中行軍に慣れた一隊は、ずいぶんと距離を稼げた。しかし、翌日は午後から激しい風雪に見舞われ、閉ざされた視界の中での移動を断念する。  サンドラはひとり、昼になっても止まない風雪に、天幕の外へと出た。昼になってもほの明るい程度、前もうしろも、白い雪が暴れ回る。ここはレフレヴィー領境にある、メルトゥッサ渓谷の手前。天幕を設置するとき、入り口をビザンティンに向けたからかろうじて方角がわかるが、そうでなければ、白い世界に閉じ込められたかのようだ。数歩離れただけでも、天幕の色が危うくなるほどの風雪。(あるじ)はこの雪と寒さに耐えられるだろうかと、振り返って王都の方角を見つめた。  横殴りの雪が視界を遮るだけで、ただひたすらに白い世界。サンドラは止む気配のない空に、諦めて天幕へと戻る。 「いかがでしたか」  時間を持て余す騎士たちが一斉に自分を見るのに、サンドラはさてどうしようかと考えながら、外套を脱ぐ。外から戻れば、天幕の中は格段に暖かく感じられた。 「明日の朝になっても止まないようなら、ここでこのまま、サクラ様をお待ちする。朝、おさまっていれば渓谷を越えてしまおう。(いにしえ)の間の世界図が示していたのは、この渓谷からだ。一番濃かったのは、ベルモア断崖の辺りだった。何かが起きている、あるいは拠点があるとすれば、断崖の辺りではないかと思うが……」
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