Ⅻ 雪に轟く銃声

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「騎士団に有事があったとしても、伯爵と合流できれば力になってくれる。こちらに何かあったとしても、戻ろうとするな。どちらか一人は、かならず伯爵の所までたどり着け」  強い瞳でそう言えば、二人は真剣な顔つきで「承知しました」と手紙を受け取る。それに安心して、サンドラは火の前に座った。  今頃サクラは、会議に出ている頃だろう。憂鬱そうなサクラの表情が、目に浮かぶ。アディには、最奥にお戻りになったら甘いお茶を差し上げるよう、お願いしておいた。彼女は、サクラの出立までに「お姉様」と呼ぶのだと意気込んでいたが、そのお茶の時間にでも、果たせるといいと思う。冬休みの間に兄のほうはすっかり、「姉上」で定着したことだし。  そんなことを考えていると、不意に、風が止んだ。  リヴァが立ち上がり、天幕の一部を上げて外を見る。 「雪は降っていますが、風は止みましたね。このまま過ぎてくれれば、使いは可能なくらい、視界もあります」 「そうか。まだ少し日もある。なんなら今から出て、丘を越えた向こう……モーディジョーあたりで夜営するのもアリかもな」 「ああ……そうですね。あの辺りなら、平地に天幕張れますね。なんなら宿もあったような?」  ヒルネスがその辺りの地図を思い浮かべながら言うのに、サンドラは残念なお知らせを告げる。 「モーディジョーに一軒だけあった宿屋は、高齢を理由にたたまれた。跡継ぎもいなかったからな。宿を使いたければ、ストームノルダンまで走る必要がある」 「それは厳しい……いや、頑張れば行ける?」  ぶつぶつと道程を考え始めた彼に、サンドラも立ち上がって小窓を開け。  視界に異物を捉えた。 「皆、静かに」  低く鋭く言うと、雪の降る音が聞こえそうなくらいの無音になる。 「渓谷側から、男がひとり、いや、二人。……今この天幕に、気付いた」 「土地の者、でしょうか」  低めた声に、気配を限りなく消そうとする声が答えたのに、サンドラは即答した。 「違う」
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