Ⅻ 雪に轟く銃声

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 幸いなことに風が威力を緩め、雪でも視界が見やすくなった。 「頼むよ、レイティス」  呟けば、走りながらも答えるように、鼻が鳴らされた。  サンドラの愛馬・レイティスは、五年前にレフレヴィー領で生まれた白い馬だ。足首も、毛皮のような長い毛が覆っており、軍馬として通常育てられる種からすると、優美な風情をしていた。生まれて間もない頃からそれなりに世話をしてきた所為か、サンドラの気持ちを汲んでくれていると感じることも多い。 「!」  そしてもう少しで崖を抜けるというそのとき。  レイティスが急に、足を止めた。  目の前に、手に手に武器を持った二十人ほどの男たちが立ちはだかる。ほとんどが斧や棍棒だが、二人、銃を構えていた。  懸念していた事態に、サンドラは静かに息をつく。話し合いが可能ならばいい。捕虜となるならそれでもいいが、内部の情報はごっそりいただく、と決めたところで、一番前にいた一人が声を上げた。 「全員馬から下りて剣を捨てろ!」  サンドラはうしろに目配せ、相手の言うとおりに馬から降りる。  あの銃は、どこまで使えるものなのか。  銃を構える二人は、誰が長か、見極めようとしているように見えた。  サンドラが銃の摘発に関わったのは、過去に一度。そのときは、発砲は出来ても扱う側への負担も大きく、的に当てることがそもそも困難な代物であった。  男が三人近づいてくると、外した剣を回収していく。彼らが戻ると、「全員顔を見せろ」とフードを外すよう要求してきた。 「隊長はどいつだ?」  サンドラは要求に応じ、「わたしだ」と声を上げる。フードを外そうとした、次の瞬間。  ダアァァァ────……ン……  轟音とともに、体を貫く重い衝撃。  自分がバラバラになったような気がして、意識が飛んでいく。  視界が斜めになり、無音の世界で、雪だけがすべてになった。  ────────サクラ様。  雪の空に、泣きじゃくる主君の顔を、見た気がした。 黒衣のセルシアⅤ 未来の行方/完
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