序 雨と風の夜に

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 サクラが目覚めてから、三日。  いろいろなことが、一気に動き出したように感じた三日だった。  サクラがこのレア・ミネルウァで、セルシアとして決めてきたことは、何もフィルセインとの戦いのことばかりではない。子供たちを育てるために養育院を建てる、というところから始まって、資金の工面や物資の調達、人材確保。実際に動き出せば様々な問題に直面し、この世界の事情が見えてきた。そこで提案した多くのことがあり、それらの報告が一気に形となって現れたり、報告として上がってきたりしたのだ。  まず一つ目の、養育院の建設。これはもう、帰ってきてみれば完成間近だった。一部にはすでに、新しい家具なども置かれていて、醸し出される空気感に、サクラの気持ちも膨らんだ。  二つ目は、王宮内への水道設備の敷設(ふせつ)。水道設備自体は、アリアロス領にはあるらしい。今はそれが少しずつ広まっていたようなのだが、サクラがこの世界に来る前の大地震で、多くの水道橋が壊れてしまったという。設計技師団をクレイセスが領地から呼び寄せてくれたのに、三領に発つ前、サクラも会って話をした。水と温泉、この両方を使えるようにしたい旨を伝えると、クレイセスたちにも驚かれた。サクラは歴史で習ったアーチ構法の水道橋の話をし、水源は森の中の湖と、セルシア専用の湯殿に引かれている温泉とを提案した。  技師団の彼らは触発されるところがあったのか、直ちに実地の測量を行い、設計図を引いていった。サクラはその途中で三領へ精霊救出の旅に出たのだが、水道を敷設するために、多くの人員が作業するための用意は整っているという。  王宮内に水道設備を敷くことは、ハーシェル王にも許可を得た。しかし今度は、多くの身元不明の作業員を入れることに、ラグナルが難色を示したのだ。サクラはそれを、セルシア騎士で補うことにした。
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