序 雨と風の夜に

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 多すぎる近衛騎士志願者。その選抜試験として、敷設作業をさせることに決めたのである。  近衛騎士選抜試験の受験資格は、現時点でセルシア院の正騎士章を取得済みであること。  最低限それだけの強さと、人間性が保証された形だ。サクラの近衛騎士の仕事の実態は、今のところ戦後復興に関わる土木作業的なことが多い。指揮を執れることも重要だが、その場にいる者たちと協調が図れるかどうかはとても大切だ。それに、仕事内容を選ぶようでも迷惑だ。サクラの発案や置かれている現状に対する処理能力も必要な、「何でも屋」を厭わない気質が要る。  また、若いサクラを見くびるような態度は当然アウトだが、(へつら)うばかりでも困る。  作業中はサクラも手伝う素振りでちょろちょろし、彼らの仕事ぶりや人間性に触れる機会を持つつもりでいた。  王立騎士団長であるラグナルは、セルシア騎士であるならばと、サクラの案を飲んでくれた。王立騎士団は王宮内の警備全般を担っているが、王妃誘拐の件以降、失態を重ねている。これ以上、不審な人物を入れる隙など作りたくないことは、彼の立場を思えば無理からぬことだった。  試験は明日から始まることもあり、今日は多くの志願者をセルシア院に受け容れた。今、王宮はセルシア騎士だらけである。続々とやってくる騎士たちに、サクラは「本当にこんな人数が」とこっそり見ながらも、まだ信じられない思いでいた。  なんとなく落ち着かない眠れなさは、それもあるのかな、とサクラは今日一日を振り返る。  彼らを受け容れるための部屋割りや、滞在中のルール決めなど、事細かに記された紙を見たときには、とんでもないことを提案してしまったものだと、少々胸が痛んだ。膨大に増やしてしまった仕事に対し、文句のひとつも言わずに遂行(すいこう)してくれている現状の近衛騎士たちに対し、サクラは改めて感謝した。
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