冬華火

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 ふと気付くと、それは夢だった。  最悪だ。まったく内容を覚えていない。良い夢だったのか、悪い夢だったのか、それすら分からない。  しかし、確かに夢は見たのだ。覚えていないだけ……  本当に最悪だ。何でここまで最悪なのか?  それは、これが正月二日の夢、いわゆる初夢だからだ。  これが何でもない普通の日であれば、 「なんだか気分が悪い。イヤな一日になりそうだ」  で終わる。一年三百六十五日、その中のたった一日の事である。そりゃあ、一年中笑って暮らせれば、それに越した事はないのだろうが、たまにはそんな日もあるだろう。  しかし、それでもたった一日、たった二十四時間の事だ。  ところがだ、初夢でこの気分になると、 「イヤな一日になりそうだ」  が、 「イヤな一年になりそうだ」  になってしまう。これはまったくもって由々しき問題である。  そこで僕はこう考える。 「僕の寿命が七十歳までとして残り四十年、日数にして……」  僕は枕元のスマートフォンを手に取り、まだ少し眠たい目を擦りながら電卓アプリを立ち上げて計算する。 「んーと、一万四千六百日か……なんだ、そんな長い日数の内のたった三百六十五日か。たった……」  やっぱり納得出来なかった。
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