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『俺が子供の頃、男子はみんな宇宙飛行士を目指したもんだ』
その日を明日に控えた夜、僕はマンションの自室で子供の頃に聞いた父の言葉を思い出しながら、父の好きだったウイスキーをグラスに注いだ。立ち並ぶ高層マンションの光が窓から差し込み、ロックグラスに照り返される。光は、子供の頃に夢見た未来みたいで、今夜は特に不思議に映った。
そんな光を見詰めながら、僕はウトウトとし始める。だが、まどろみは不意に鳴った携帯電話の音にかき消された。
着信は母からだった。
受話器の向こうから聞こえてきたのは、嗚咽と、鼻をすする音と、涙の落ちる音、この三つだった。
「どうしたんだよ?」
「いよいよ明日じゃない。お父さんの事を思い出していたら泣けてきちゃって……」
だが、僕は少し呆れて返した。
「親父が死んで二年も経つのに、今更号泣するなよな」
「そうね。でも、懐かしさと嬉しさで……」
母は更に泣き始め、つい苦笑してしまった。
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