豪邸

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豪邸

 馬車に揺られながら、窓から見た街の光景はまるで中世のヨーロッパのようだった。行き交う乗り物は、馬車のみ。車や自転車もない。馬車の走る道は何も舗装されていないが、化け物たちが歩くのであろう道は、形のそろった綺麗な石で舗装されていた。  周りには、教科書に載ってそうな煉瓦や石造りの建物が立ち並んでいる。携帯のような電子機器を使っている化け物は、見る限り、一匹もいない。道に並ぶのがガス灯だけだったから、きっと電気もないのだろう。  そういえば、科学は、魔法と反対にあるものだと誰かに聞いたことがある気がする。ドランゴンや触手、魔術など、ファンタジーの生き物としか言いようのないこいつらにとって科学は、天敵のようなものなのかもしれない。  そう考えれば、この一世紀も二世紀も遅れた光景も頷ける。 「着いたぞ」  どうやら、こいつの住処についたらしい。再び担がれて馬車を出ると。 「……わぉ」  目の前に豪邸が建っていた。庭だけで東京ドーム2桁分ありそうなくらいだ。噴水や森がある庭なんて、アニメやドラマの世界の話だと思っていたから、それを目のあたりにすると、感動の一言しか浮かんでこない。それに見劣りしない屋敷は、下手したら、数百位の部屋があっても驚かない程の大きさだった。  ジークがこの化け物はいいとこの社長とか言ってたが、いいとこ過ぎるだろ。財閥かなんかの御曹司かよこいつ。あれか、少女漫画でよくあるテンプレートを兼ね揃えた金持ちか。 「……」 「なんだ、俺の顔になにかついてるか?」 「別に」  思いつく限りの少女漫画に登場する御曹司の項目を上げてこいつを観察したら、ほぼ9割にチェックが入ったってだけだ。  世の中、理不尽だらけだ、本当に。  そもそも、顔よしのお金持ちって時点で女子にとってみればかなりポイント高いだろう。ま、気持ち悪い触手を使う化け物って時点で、その点数はマイナスまで急降下するだろうがな。そこはざまぁと言えるのが爽快だ。 「セルフィ。紋章を屋敷の周りに書いてきてくれ。荷物はほかの奴に頼め」 「かしこまりました。旦那様は?」 「俺は、こいつを部屋まで連れて行く。初めての人間だ。じっくり観察したい」  おい待て。観察とはなんだ。俺はどこぞのモルモットじゃねぇんだぞ。それに俺の体なんぞ見たって、なんの得にもなんねぇだろうが。むしろ損だ損。大損だ。そんな無駄としか言いようのない時間の使い方すんなら、他の事に時間裂けよ。 「それでしたら、一度湯浴みをさせた方がよろしいかと」  執事の回答に、俺は思わず心の中でずっこけた。そっちも普通に受け入れるな。しかもなんていうアドバイスしてんだよ。  こいつら、みんな揃って馬鹿なんじゃねぇか? 「そうだな」  心の中で突っ込んだが、伝わるはずもなく。俺はそのまま風呂場に連れていかれた。途中、何人もの召使らしき化け物とすれ違ったが、どれも男だった。言わなくても全員美形だ。 大層な屋敷だったし、一人くらい、可愛くて、ボンキュッボンのメイドとかを少し期待していた俺にとっては、がっかり以外の何者でもない。  そこでふと、昔ゲームに出てきたスライムを思い出した。  スライムには、性別がなかった。触手=スライムにしていいのかわからないが、もしかしたら、こいつらには、女っていう概念自体が存在しないのかもしれない。 (そういえば、召喚された奴らも全員男だったな)   今の時点では、情報がなさ過ぎて、分からない。が、男だけっていうのにはもしかしたら、なにか理由があるのかもしれない。  どっちにしろ。落胆の気持ちは消えないがな!
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