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プロローグ
あの日、俺は、いつもの喧嘩仲間に呼び出しをされ、学校の屋上にいた。
いつもの難癖。いつもの喧嘩。互いに、殴り、蹴り、体中が痛くなっても、相手が倒れるまではやめない。喧嘩は楽しい。強い男が伸びた地面で、自分だけ立っているのは、爽快と言っても過言ではなかった。
だが、あの日だけは違った。殴られた反動で寄りかかったフェンスが、音を立てて壊れたのだ。
「あ……」
押し殺せなかった反動のまま、体が空中へと飛び出す。相手もこれは予想していなかったのだろう。必死の形相で、俺を助けようと手を伸ばしてくれた。が、重力の方が俺を引き寄せるのが速く、その手は指先を掠めたものの、掴むまでは出来なかった。
「鉱ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
嫌な浮遊力、直後押し寄せる重圧と風圧。校舎から身を乗り出した相手の顔が遠ざかり、俺の名前を叫ぶのが数秒遅れて聞こえた。
耳の横を切る風の音が煩い。想像なんて軽く越えるだろう激痛が何時来るのか確かめるのが、怖くて、ただただ眼前に広がる薄暗い夜空が遠くなっていくのを眺めていた。
ーーこのまま死ぬのか。
漠然とそう思ったが、同時に心から強く願った。
「死にたくない……!」
だって俺が死ねば、母さんを一人ぼっちにしてしまう。
世話になったおやっさんや奥さんにも恩返しできてないし、親友の山岸にはノートを借りたままだし、まだまだ喧嘩だってやりたりねぇ。
次々と溢れてくるやり残したこと、やりたいこと。それを諦められて死を受け入れらる程、俺は潔い性格はしてねぇ!
「こんな事で、死んでたまるかぁぁぁ!!!!!」
そう叫んだ直後、俺を襲ったのは眩いほどの強い光。
「なっ!」
強すぎる光に、思わず目を瞑る。刹那、痛いほど感じていた風圧が、嘘のように掻き消えた。
「な……え?」
恐る恐る目を開けるとそこはーー。
「どこだよ。ここ」
知らない部屋の中だった。
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