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弟登場
その日、俺は化け物と共に街へと出てきていた。こいつに買われてから初めての外出だ。
逃げる気はないのに、ちゃっかり化け物の触手がおれの腹に巻きついてるから、どっちにしろ逃げようがない。
これじゃ、拘置所にいく犯人みたいじゃねぇかよ。
ムカついたのと、どれ位ならこいつから離れても平気か試す為に逃げようとしたが、案の定引き戻された。くそ。
『どこ行くんだよ』
「俺の弟の店だ」
こいつら弟いるのかよ。人間姿が美形なのは変わりないだろうが、それ以外が想像つかない。
あの変態アホ兄弟を想像するなら、こいつの弟もむっつりスケベなのか? いや、あれは参考にしてはいけない兄弟な気がする。
「着いたぞ」
そう言われ、降ろされたのは、なんとまぁ高級そうな店。本当にあるのかと疑問に思うほど綺麗に磨かれた窓ガラスの向こうには、綺麗な装飾品が並んでいるのが見える。
『宝石店かなにかか?』
「ほうせき、がなにかわからないが、ここは装飾品を扱う店だ」
あ、そうだ。こっちでは宝石は魔石と同じ扱いだった。と言うことは、俺が言ったのであってるのか。弟さん、えらいとこで働いてんなー。
「行くぞ」
「ちょっ!」
化け物に続いて、これまた綺麗なドアを潜ると。
「ようこそおいでくださいました。兄様」
スーツを着た、めっちゃ美人さんが迎えてくれた。
白に近い薄い水色の長髪は、項あたりで纏められており、瞳は蒼と緑が混じった複雑で奥深い色。肌は雪みたいに真っ白で、俺なんかよりも絶対に触り心地がよさそうだ。
化け物は美形だが、こっちは美人だ。えっと、なんだっけ。こいつに当てはなりそうな言葉があったような……。
「あー。高嶺の花か?」
下賎な者は触れてはいけない。そんな気がする。
「ホクト、久しぶりだな。3ヶ月振りか?」
「3ヶ月と4日と22時間ぶりです。兄様」
うわ、細か!
「相変わらず正確だな」
「兄様にお褒めいただき光栄です」
化け物に頭を撫でられ、ホクトは嬉しそうに綻ぶ。うわ、美人の笑顔とか眼福ものだわ。
俺の方を向いた瞬間、その瞳は絶対零度になったがな。この視線は知ってる。俺を敵視している目だ。元の世界では見慣れてたけど、こっちでは久々に向けられたな。おー。なんか新鮮。
「で、この人間は?」
「買った。トールという。お前にも紹介したくてな。トール、俺の弟のホクトライトだ。皆、ホクトと呼んでいる」
「弟のホクトライトと申します」
『トールだ』
魔石にそう書いて見せたら、やっぱり驚かれた。
「この人間、文字がかけるのですか!?」
「ひとりでに憶えた」
「さすが、兄様が選んだ人間ですね。……優秀なようで」
いや、こいつなにもしてないから。しかも後半、半分嫌味だろ。発した言葉が見えたなら、きっとめっちゃ鋭いトゲがついてんじゃねぇか? ってツッコミたくなるレベルだ。
隣のヤツは全く気づいてねぇがな。
「今日はこれに見合う装飾品を買いたくてな。ついでに魔力抑制が付いた装飾品も数個頼む」
「兄様の魔力抑制付きの装飾品とついでに人間用の装飾品ですね。かしこまりました」
おい、こいつわざわざ言い直したぞ。
「では、先に兄様の装飾品を」
「いや、俺のは最後でいい。俺の魔力を抑制出来る魔石のついた装飾品なんて、選ぶ程ないしな」
「……。分かりました。兄様がそこまで言うのならば人間のから選びましょう」
そして、またホクトに睨まれる俺。なんというか、俺に対してのホクトの反応がめっちゃ塩対応なんだけど。寧ろ、岩塩投げ付けてきそうなほどのツンケンさだ。
まぁ、大好きな兄がいきなりペット連れてきたら、嫉妬くらいするのか。兄弟いないから、よく分からん。
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