第9話 副担任とオンラインゲーム

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第9話 副担任とオンラインゲーム

 職員会議で、苺谷(いちごだに)くんの紹介があった。 「では(たちばな)先生、ご指導を頼みますよ」 「はい。我がクラスは生徒同士でトラブルなどもないので、対処しやすいと思いますよ」  教頭からの指示があった後、わたしは自分の席に座る。 「いやあ、驚いたよ。まさか、キミが教師になっていたなんて」  わたしは、苺谷くんに声をかけた。  大学の教育学部に合格したとは聞いていたが、卒業後に同業者になっていたとは。 「連絡が遅れて、すいません。なにをやってもダメダメで、バタバタしていましたので」  副担任に苺谷くんを交えた授業は、つつがなく進む。  体育と工作は、苺谷くんに任せることにした。しかし、床運動ではフィニッシュですっ転び、ドッジボールをやらせては顔面にキャッチ。工作の授業では、不器用さを発揮していた。  まだ三〇代になったばかりの苺谷くんは、クラスでも馴染んでいる。  給食のときは、女子生徒にプリンをもらっていた。  規則違反だとわたしが注意しても、女子のファンは増加している。  ウチ以外の六年担任は女性か高齢者だ。苺谷くんに人気が集中するのも、仕方ないのかもしれない。わたしが小学生なら、おじいちゃん先生でも平気なのだが。  もうすぐテストなので、問題を作っているときだった。  ノートPCを、苺谷くんはずっと操作している。やたら真剣に。 「苺谷くんは、なにそれ?」  わたしがのPCを覗き込むと、苺谷くんは慌ててノートを閉じた。 「いやあ、ちょっと息抜きに」  ノートを開きながら、苺谷くんが解説をする。 「オンラインゲーム?」  彼が遊んでいるのは、見下ろし型のRPGだ。コミカルなキャラクターが、剣や魔法で戦うタイプの、古き良きファンタジーゲームである。 「今だと、ちょっとした相談を受けていたりするんですよ。身バレ防止のために、リアルの職業とかは伏せていますけどね」 「……あ!」  わたしは、オンラインゲームの中に、見知ったキャラを見つけた。 「この子、知り合い?」 「ああ、『マギカ・ルカちゃん』ですか?」  そのキャラは、「ルカちゃん」までがユーザー名らしい。 「この子が、どうかしたんですか?」 「いえ。何もないんだ。カワイイなって」  それとなく、わたしははぐらかした。  ヘタに聞き出せば、生徒のプライベートに繋がってしまう。 「ですよね。最近知り合って、今も話していたんですよ」  苺谷くんは、彼女の知り合いのようだ。 「この人とは、長いのかな?」 「二、三年の付き合いですかね? 橘さん、どうかしました?」 「いえ、なんでもない」  わたしが適当に話を流すと、苺谷くんが「あっ」と。 「ダメですよ。交際しようなんて考えたらっ」 「……は?」  この男は、何を言ってるんだ? 「この子、中身は男の子らしいんですけど、どのキャラクターより女性っぽくて。本人はセクシャリティを気にして、ソロで遊んでいるみたいなんですよ」  どうも、あらぬ誤解を招いてしまったらしい。  確認できたのは、苺谷くんはこのアバターの人から相談でも受けていたようだ。 「違う違う。交際相手がほしいとかじゃないから」 「……だったらいいんですけど」  なにがいいんだろう? 「でも、この子と話せるかな?」  苺谷くんが、「聞いてみますね」とキーを叩く。 「算数の宿題があるから、ムリだって言っています」  相手は、小学生で間違いないかも。中学生以上なら、数学を「算数」などと言わない。  空振りか。あるいは、相手がこちらの行動に勘づいた? いや、エスパーじゃあるまいし。わたしは、頭を振り払う。ちょっと魔法少女が万能と思いすぎていた。 「ありがとう、苺谷くん。また明日」 「……あの、橘さん!」 「なにかな?」 「この後、お時間ありますか?」 「ないかな」  一応、溜まっている仕事はない。 「お食事でもどうですか? 安いところなんですが」 「いいよー」  うわ、男性から誘わちゃった。
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