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「ご、ごめんなさ」
「大丈夫だよ」
有坂からさあっと熱が引くが、本条は微笑みティッシュで汚れを拭き取った。
「こっち向いて」
本条は有坂を仰向けにした。馬乗りになり、有坂の顔を両手で軽く挟んでじっと見つめる。大きな目はなんとも愛おしげに細められ、唇は恍惚と弧を描いた。その視線は真っ直ぐに有坂の目に向けられている。
有坂はデジャヴを感じた。この表情を見たことがあると。考えてはいけないと警鐘が鳴り響き続けるが有坂の意志は勝手に記憶を遡っていく。そして答えにたどり着いた。夢の中で見たのだ。何度も何度も、その愛に溢れた表情を向けられていた。
それが現実になったのに、有坂は不安でいっぱいだった。実在する有坂を素通りして思い出の中の恋人を見つめているのだと、認めるのが怖くて怖くて仕方なかった。
有坂の顔はくしゃりと泣きそうに歪んだ。本条の眉が下がる。
「……やっぱりやめる?」
有坂は首を横に振った。
「嫌です。このまま……」
有坂は本条の腕を引く。こうなれば、めちゃくちゃに抱かれた方がマシだと思った。それこそ、自分が誰だか分からなくなるほどに。
それに反して本条はどこまでも優しかった。皮膚に触れず産毛を逆立てるような繊細な手つきで有坂の身体をなぞり、たっぷりと時間をかけて後孔をほぐした。経験のない有坂でも、疼きに耐えかね挿れて欲しいと口にしてしまった。
仰向けになり本条を後孔に受け入れると、裂けるような痛みはないものの、孔の周りの筋肉がみしみしと拓かれるような感覚に苦痛が伴った。前髪の生え際や背中に汗が滲む。身体を硬くする有坂に、本条は根気強く自身の型を馴染ませていく。
優しくしてくれるのが嬉しくて、そのまま溺れてしまいたかった。だが勘違いしてはだめだ、愛は自分に向けられているものではないと有坂は頭の片隅で唱え続ける。何も見えないふりをして、本条から与えられる優しさを貪ってただ甘えられるほど有坂の神経は太くない。
抽送が始まれば有坂の思考力も理性も消し飛んだ。夢の中の朧な感覚とはまったく違う。
腰をぶつけられる衝撃は思ったよりずっと強かったし、本条の陰茎がどこを擦っても気持ちがいい。粘膜すべてが性感帯になってしまったようだ。浅い場所を細かい動きで擦られればビリビリと甘い痺れが走り、奥深くまで穿たれれば脳天まで快楽に貫かれた。
それらをいなす術を、未通の有坂はまだ知らない。なりふり構わず乱れ嬌声を撒き散らす。
「ああっああっ!気持ちいっ……!あっ……!」
「いいよ、我慢しないで」
「ああっ、出るっ……ぁっ、あぁぁぁ!」
有坂はラグから背中を浮かせ、ぶるぶると下半身を震わせた。薄い腹に白濁が散る。それでも本条は動くのをやめない。有坂は再び快楽が引き摺り出されていく予感に、頭の奥がツンとした。
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