うさぎと患者《クランケ》

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「本条さっ……本条さんっ、も、無理。きゅうけ」 「ごめん、僕もイキそう。っもうちょっと」  本条は有坂の身体を抱き込む。きつく抱きしめられ切羽詰まった声が耳を掠めた。余裕の無い態度や気持ちよくしているのは自分なのだと言う愉悦に、有坂はぎこちなく、だが恍惚と口元を緩める。  次の瞬間から、抽送の速さと深さが増した。身体がぶつかる衝撃と快感が有坂を大きく揺さぶる。パンパンと皮膚がぶつかるたびにピリピリした痺れが肌の上に残り、骨が軋みそうなほど激しい衝撃が矢継ぎ早にやってくる。有坂は必死で本条にしがみついた。本条が体内に入ってくるたび目の前がチカチカして、そして意識が飛びそうになるほど気持ちいい。 「あっ……あん! あっ……く、んっ、こわいっ、こわいよ……」  過ぎた快感にたびたび視界がフラッシュする。そのまま意識を失えば、次に目を覚ました時本当に自分じゃなくなってしまう予感がして怖かった。それでも容赦なく本条の猛りと快感の波が襲いくる。 「ああっ! やだ! あっぁっ、死んじゃうっ、死んじゃううぅぅ!!!」  嬌声というより悲鳴に近かった。本条は唇を押し付け蓋をする。それでも押し潰された声が喉や口の端から漏れた。  やがて本条が一際奥まで陰茎を差し込み、ぐりんと抉るような腰使いをすると、有坂は頭の神経がぷつんと切れそうになった。頭が真っ白になり、ガクガクと痙攣しながら吐精した。  本条も深く息を吐きながら脱力し、有坂に心地よい重みがかかる。ゆっくりと顔を上げた本条は、愛おしげな眼差しで有坂の蕩けた目元をなぞる。有坂はまだ余韻の中にいて戻って来られない。  本条の精悍な顔が近づく。大きな目が自分の顔を映す。有坂は目を見開いた。本条の目に映った顔は、有坂のものではなかった。線の細い美青年が本条の瞳の中で微笑んでいる。それはまぎれもなく遺影の中にいた、本条の恋人の顔だった。有坂は絶叫し、奈落に突き落とされる。そして夢から醒めた。   「え……」  有坂はもう一度目を見開く。目の前には眠る本条の顔があり、あたりは薄暗い。視線だけで周りを窺えばリビングとは違う部屋にいて、窓のカーテンは外から差す光を透かしていた。いつのまにか寝室に居て、朝になっている。身動ぎすれば布団がずれて肩がひやりとした。  
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