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本条はこの前と同じようなスーツ姿だった。客がまばらなファミレスの中を有坂が歩いて行くと、本条はにこやかに手を軽く上げた。
「こんばんは。学校だった? お疲れ様」
「あ、いえ、本条さんも、お仕事お疲れ様です」
有坂はぎこちなく会釈をし、緊張しながら向かいの席に座った。
「好きなもの頼んでいいよ。この前傘を買ってもらったしね」
本条はメニューを広げる。
「いやっ、そういうわけにはっ……ホント、気にしなくていいんですみません……」
「じゃあドリンクバー奢るね」
本条はメニュー表に目を落とした。有坂はぐるぐると目が回るような思いだった。少しでも安くて腹の膨れるメニューを探す。手術やリハビリの費用は保険金や貯蓄でなんとか賄えたが、現在有坂の家の経済状況は芳しくないのだ。
なにより、ずっと焦がれていた人物が、実在して目の前にいて喋っている。
「決まった?」
「あっ、まだですすみません」
「そっか。じゃあ決まったら教えて」
本条はビジネスバッグからスマートフォンを取り出した。有坂は慌ててメニュー表に目を走らせると、一番安価なドリアを選ぶ。
呼び出しボタンを押すと、店員がテーブルにやってきた。
「ラムステーキとライス大盛り、あとドリンクバー二つ。君は?」
「あ、シーフードドリアで……」
「あ、待ってこれ美味そう。一緒に食べてくれる?」
「い、いいですよ」
「じゃあミックスグリルと生サラミ、バラ肉のトマト煮込みも追加で」
注文をした後、本条は有坂に世間話を振った。どこの大学に通っているのか、アルバイトは何をしているのか、好きな飲み物は何か、酒は飲める方かなど流れるように尋ねる本条に、有坂はアップアップしながら答えた。
やがて料理が運ばれてきた。本条は最初に頼んだラムステーキとライスを平らげると、エビフライと付け合わせのポテトをいくつか取り、お腹いっぱいになったからと追加したメニューを有坂の前に並べる。
有坂はありがたくペロリと平らげた。本条はその様子をニコニコと眺めていた。なんかパパ活みたいだなと有坂は頭の隅で思ったが、本条の気遣いのスマートさに舌を巻いた。
会計の時も、有坂が追加分の料理の料金を払おうとすると、頼んだのは自分だからと本条が支払った。それでも有坂が食い下がると、
「じゃあ千円頂戴」
と手を出した。有坂は考える間も無く出してしまったが、後から落ち着いて計算するとどう考えても足りなかった。
ファミレスを出て有坂はこれからどうしようかと考えながら本条の半歩後ろを歩く。本条はコンビニの前で足を止め振り向いた。
「僕の家、行くでしょ?」
ニコリと笑いかけられ、有坂は心臓が跳ねた。男同士とはいえ、本条を性的な対象として見てしまっている有坂は揺らいだ。
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