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暗闇をぼーっと見つめていました。
いつの間にか時間が経って、気付けば夜になっていました。寒くて寒くて、温かい毛布に包まりながら、ベッドで丸くなっていました。カーテンをぴったり閉めた部屋は暗くて、眼鏡を外してしまえば暗闇に慣れた目でも、もう何も見えないのと同じでした。
とても静かな夜でした。
どこか哀しい夜でした。
目を閉じると、私はすぐに眠りにつきました。
そうしてまたあの草原に立っていました。
風もなく薄暗い、どこか不気味な草原で私は夢の続きを見ていることに気づきました。
心は必死に誰かを探していました。
誰を探しているのか、顔も名前も思い出せないけれど、確かにその人は存在しているのだと私は確信していました。
ただひたすら会いたい。その気持ちが私を突き動かしていました。
草原はいつの間にか学校へと変わっていました。
どこかに「彼」がいる。
私は教室を、廊下を、校庭を、走りました。
けれど、すれ違う誰を見ても違うと感じるのです。彼ではない。彼はいるはずなのに何処にもいない。
私は鍵を持っていたことを思い出して、手をひらきました。アンティーク調の鍵を握っていたはずが、そこには赤い石がありました。つやつやと輝く石は、一瞬なぜか鮮やかな血のようにも思えました。恐怖でもなく憧憬でもなく、上手く言えないのですが、全身の血液が沸騰するかのような感覚が駆け抜けて行きました。
私はこの何とも形容しがたい感覚に、思わず石を握りしめたのです。
唐突に景色が揺らぎ、今度は長い廊下が続く建物の中にいました。
私は吸い寄せられるように、ある扉の前で立ち止まりました。金色の繊細な縁取りが美しい綺羅びやかな扉には、不自然な白い張り紙がしてあります。
「この先とても危険」
歪な文字でそれだけ書かれていました。
私はこの先に「彼」がいるのだと思いました。
早く会いたい。絶対に見つけるのだと強く思っていました。
扉は簡単に開きました。
私は一歩を踏み出しました。
これが、長い長い夢の始まりだと知らずに。
「夜中に関東を直撃した大災害で、死者推定☓☓☓☓人、行方不明者ー」
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