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僕は、全速力でパトカーを東京アクアラインへ走らせる。
もちろん、千葉県警と神奈川県警にも応援を要請した。
後で聞いた話だが、今回の爆弾事件が東京連合の仕業であると伝えると、神奈川県警の川崎警察署は鬼の形相でパトカーの出動命令を出したらしい。それだけ川崎での彼らの悪評は伝わっているんだと、僕は思った。
「ねぇ、戸神くん、私に何か言い残すことはない?」
「特にないが、敢えていうと君の木刀捌き、薙刀経験者だけあって格好良かった」
「そう?私はやれるだけのことをやったつもりだけど?」
「それこそ仁美、僕に言い残すことはないのか」
「うーん、色々あって悩んじゃうけど、一つに絞るなら、あなたの潜入捜査はお見事だった。正直、Qから潜入捜査を頼まれた時、私は怖かったんだ。あんな犯罪集団の元に潜入したら、私の命はないかもしれない。それは覚悟していた。けれども、戸神くんがいてくれて良かったと思うよ」
「そもそもの話、どうして君はQから東京連合に潜入するように頼まれたんだ」
「私がバイトをクビになったって話はしたっけ」
「した」
「あの後ね、私は歌舞伎町で暴漢に襲われている女性を助けたんだ。その女性を襲った暴漢がどうも東京連合のメンバーだったらしくて、私は私で独自に東京連合のことをインターネットで調べていたんだ。そうしたら、秋葉原でQって名乗るエージェントに呼ばれて。最初は何のことかわからなかったけど、後になって『東京連合に復讐がしたい男の子』ってことが分かったんだ」
「そうだったのか。じゃあ、僕の携帯電話にメールを送ったのも君の入れ知恵だったのか」
「まあ、そんなところかな。最初は花蓮ちゃんにメールを送るつもりだったけど、Qも彼女に危害を加えるのは拙いって思ったらしい。そして、花蓮ちゃんの携帯電話のアドレス帳をハッキングしたら戸神くんのメールアドレスが見つかったらしくて、それで戸神くんにメールを送信した。まあ、そんなところかな?」
「なるほど。なんだかQらしいやり方だな」
「彼は将来有望なハッカー、いや、プログラマーになると思うよ。私はそう思うな」
「でも、結局矢野さんがQを拾わなければここまで東京連合を追い詰めることは出来なかっただろう」
「そうだよね。矢野さんにも感謝しなければ」
「そうこう話しているうちに、爆弾のカウントダウンが10分を切った」
「私たち、このまま死んでしまうのかな」
「何か奇跡が起きない限り、無理だろう」
「あれ?向こうに見えるのってパトカーじゃない?」
「いや、気の所為だろう。極限状態で幻覚を見ているんだ」
「ううん、確かにパトカーの音が聞こえる」
僕は、遠くに見える赤灯を見つめていた。
そして、確かにサイレンが鳴り響いているのを確認した。
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