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先生はやんわりと緩和ケアを推して来る。だが、何もしないで受け入れるのか? ムックリと首を擡げる負けず嫌い。
勿論決めるのは父だ。苦しむのも父なのだ。
どんな答えを父が出しても寄り添う覚悟が必要だった。
告知の日はどうしても予定が変えられなくて、病院に直接行ったおかあちゃん。当然、父とは別の車。
そして母は勿論、一緒に告知を聞いた妹は片目が弱視の為に運転出来ない。
父が自分で家まで運転しなきゃならない。大丈夫なのか? ショックはかなり大きかったはず。
そんな心配って、当たらなくてもいいのに当たるんだよね。
案の定、ガードレールに車を擦った父。
物心ついてから父が車を傷付けた記憶なんておかあちゃんにはない。飄々としてたけど、やっぱり相当動揺してたんだなと、いっそう心が苦しくなった。
その日は蜻蛉返りで家に戻らなきゃならなかったおかあちゃん。高速道路に乗った途端に涙が出た。
家まで約2時間。
夏休みで帰って来ているSの前で涙なんて流せない。2時間の間に流せるだけ流してしまえと自分に言い聞かせて車を走らせた。
それに家に着いたら着いたでしなきゃならない事は多い。そして一刻でも早く実家に戻りたい。
今の父に母と二人きりの生活は負担が大きい。それは逆もしかりだ。
2時間後、家に着くと同時にSに事情を話し、用事が済み次第実家に行くと話した。
実はSが進学する際に選んだ道は医療従事者の道だ。それもあって、今の祖父母の現状を見せるのも、彼の将来にとっては良い経験となると考えた。
そして単身赴任中の主人にも電話する。
『そんな状況なら仕方ないだろう。1年でも2年でも行って来い』
何を言うわけでもなくそう言ってくれた主人に感謝した。
そして隣の家に住む主人の両親、義理の父母にも了解をとり、当座の用事を済ませて1週間後に実家へと戻った。
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