異世界転生してきた藤P

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プロローグ☆邂逅 街でスウェット姿の少年が、通りすがりの人に何やら話しかけ、「意味わかんねーよ!」と怒鳴られているのが見えた。 私はできるだけ関わり合いにならないようにしたかったが、通り道の途中にその少年がいるので、どうしてもすれ違わなくちゃならなかったし、どうしても話しかけられてしまった。 「この国は王子と王女だらけなのですか?」 「はあ?」 「みんな仕立ての良い服を着て、とてもきれいな身なりの人ばかりなので」 「えーと、多分、文化水準が高いから、平民でもそんななんだと思いますよ」 「みんな平民…」 「義務教育とかテレビとかのメディアのおかげで識字率も高いし、いろんな常識が浸透していて…」 「僕!僕もそうなりたいです!」 「ええと…」 ポリポリ。私は痒くもない頭をかいた。 「そうなってると、私には思えますが」 「おお!」 少年は両手をしげしげと見たあと、自分の身なりをなんとかして確かめようとした。私は近くのビルの黒ガラスまで少年を引っ張っていって鏡みたいに映った姿を見せた。 「僕、本当は鳥なんです」 「はあ」 「藤田さんちで飼われてたPちゃんです」 かんっぺきに頭おかしいかもしんない!!! 「嬉しいな。人間になってみたかったんですよ」 「それは、良かったですね」 そう言って逃げようかなと思い始めたとき。 「僕は前世の最期は藤田さんちで夕食の食卓にのぼったんです」 「なんで?!」 「食べるものにも困るくらい貧しい家でした」 しょんぼりしている少年を私は見捨てることができなくなった。 「とりあえず、私と一緒に来る?」 「いいんですか?!!」 少年は顔を輝かせた。 「名前、藤Pって呼んでいい?」 「なんでですか?」 「私、山Pのファンなのよ」 「それとどうつながりが?」 「かっこいいっしょ!」 「???」 私は藤Pを連れて家に帰った。 第一章☆お兄ちゃんのお古 「ただいまー」 「おけーり」 あれなんだお兄ちゃん珍しくいる。 「恵子さんはー?」 仏頂面。また喧嘩したな。同棲してるアパートから実家に戻ってる。 「お兄ちゃん、学生の頃の制服もらっていい?」 「なんに使うんだ?メルカリでも売れないと思うぞ」 「おいで藤P」 こっそりとついてきた藤Pがドキドキしながらお兄ちゃんと対面した。 「なんだこれ?」 「藤P」 「なんかの小動物みたいだ」 「鳥だよ」 「はあ?」 「着てみてご覧」 藤Pはお兄ちゃんのお古の制服を着た。 思ったより背が高くて手足が長い。イメージ的にふわふわのもこもこな感じがしたのになんでだろう? 「いいんじゃないの?」 お兄ちゃんがアホづらで言った。 「これで学校潜入しよう」 「もう制服モデルチェンジしとるぞ」 「じゃあ、転校生ってことで」 「ほんとに学校?行けるんですか?」 「連れてってあげる」 私はにんまり笑った。 第二章☆放課後の学校 放課後。 あらかじめ、藤Pに腕時計を買ってあげて時間の見方を教えておいた。ちゃんと教室に顔を出す藤P。 「えー!誰?」 女子が集団で囲む。 「ああっ!すみません、すみません!」 超低姿勢の藤Pにみんながきゃあきゃあ言った。 「かっこいい!」 「えー、かわいい!」 「イケてる!」 なんだ。モテてるじゃない。 「だーめ!藤Pは私の」 「なんでー?!」 ブーイング。 「芸能界とか入らないの?」 「芸能界?」 藤Pが、なんですかそれ?と聞きそうなのを遮って、私は藤Pの手を引っ張って、体育館へ連れて行った。 「運動神経はいい方?」 「?多分」 私は練習中のバスケ部にお願いして藤Pを仲間に入れてもらった。 最初、ルールがわからなかったものの、すぐ、コツをつかむ藤P。 ダンクシュートはさすが前世が鳥だけあって飛翔するような優雅さだった。 「また来いよ!」 気の良い連中がそう言って、藤Pを見送った。 「勉強は?しなくていいんですか?」 「文字読める?」 「…読めません」 学校の敷地を出て、図書館へ向かう。 「しばらくこっちで勉強してから、学校の勉強してみようか?」 「はい」 「学校楽しかった?」 「はい。みんな優しくていい人ばっかりで、良いところでした」 「あそこを目指して、ここで頑張る」 「はい!」 藤Pの黒目がちの瞳がきらきら輝いた。 まずは絵本からかな? なんか…かわいい。 私は胸がキュンとした。 エピローグ☆藤Pの怖いもの にゃあん。 「わー、猫だ!かわいい!」 私が寄ってきた三毛猫を抱っこしていると、一緒にいたはずの藤Pが姿を消していた。 きょろきょろ見回すが、どこにもいない。 猫を下に下ろして、バイバイすると、すぐ近くの電信柱からストンと藤Pが降りてきた。 「なにしてるの?」 「怖い!なんですかあの生き物?」 「猫よ。三毛猫」 「ミケネコ!!!目が縦に長くて金色だった。あれは肉食獣ですね!?」 「肉食獣…。間違っちゃいないけど、人間は襲わないよ、多分」 「あっそうか!僕、人間なんだ!」 「パンとか果物とか野菜しか食べてないけど、理論上、今の藤Pならお肉も食べれるはずだよ?」 鳥肉は…共食いみたいで嫌がるかもなぁ。 「藤Pは怖いものがあるんだね?」 「転生するときに百の夜と百の昼がものすごい速さで過ぎていったのが一番怖かったです」 「転生したってことは、違う生き方をしていいよって、なにかに許されたからじゃないのかな?自分に正直に大切に生きなくちゃ」 「そうですね…」 ぐす。 涙ぐんだ藤Pは私に抱きついてきた。 焦る私。 柔らかくてあったかい。毛布に包まれているよう。 ちょっとうっとりしてしまう。 「大丈夫?」 「はい」 なかなか離してくれない。 「みんな見てるから、離して」 「すいません」 なんか、少年っていうより、ひな鳥みたい。 藤Pと手をつないで歩く。 「頑張って生きていこうね」 「一緒にいてくれますか?」 「もちろん」 いろんなこと教えて、一緒に大人になるんだぁ。 幸せだなぁ。 了
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