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銅鑼灣は血の海、灣仔は火の川
‐1986年。英国領香港。
真夏のその日もこの街に夜が訪れようとしていた。
夜景の美しい、しかし危険な夜が・・・。
香港島・銅羅湾の近辺。
看板が所狭しと立ち並ぶ波斯富街。
彪雄貴金属店はその通りの西側に位置していた。目の前を横切るのは二階建ての路面電車トラムだ。
店内には十名近い客と従業員がいた。若い男女、上品そうな老婦人、スーツを着た男、店員に文句をつける年増女。
若い男女の片割れの女性は、店員をいびる客を不満げにじろじろ見ている。
男の方はそれに気づくと、女の肩をたたいて
「ほっとこうよ、姐さん。」
「あー、う~む・・・。」
二人が話していたのは台湾語だった。
「そうよ。ふくれっ面しないで。」
また一人台湾語を発した老婦人。二人の祖母だった。
若い女はクレーマーの方をもう一度見たが、ため息をつくと目の前のショーケースに目を向けた。
並んでいたのはネックレス類。
「どれがいいかな。」
と弟。
女は少し考えてから、
「これかな・・・。」
と一つを指指した・・・。
パン!!
その音は突然鳴り響いた。
彼女は思わず振り向いた。
さっきまでクレームをつけていた客。棒立ちになったかと思うと、いきなり崩れ落ちた。
その後ろには数人の男。サングラスにマスクをしていた。手には黒光りする何かを・・・。
と、一人が彼女たちのほうを見た。手に持っていたものをこちらに・・・。
「伏せて!!」
弟が彼女と祖母にとびかかったのはその時だった。
直後・・・。
ダダダダダダダダダダダッダーッ!!
「うわあああああ!」
ダダダダダダ!
「キャアアアアアアアア!」
パリン!
ズガガガガーッ!
ガッシャーッン!
「救命呀(助けてー)!!」
パンパンパンパンパン・・・。
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