桜の花が散ったあと

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 公園を歩きながら、私が中学生の時の担任の話とか、クセのある美術の先生の話をした。話しながら心が弾んで、気持ちが中学生に戻っていく。先生とは馬が合うっていうか、昔からの仲良しみたいに話せた。 「何の木だろう」  見事に葉を紅く染めた木の前で足を止めた。 「桜かな」  先生が答えてくれた。 「桜なんだ。花が咲く所しか見た事がなかったから意外。紅葉するんですね」 「紅葉するのは葉を落とす為の準備なんだよ。温度が十度以下になると、光合成を止めるんだそうだ。それで、葉に蓄えられた糖分がアントシアニンという赤い色素になって赤く染まる訳だ」 「先生、理科も教えてるの?」 「実は理科の先生に教えてもらったんだ」  先生と目を見合わせて笑った。 「そういえば先生、国語の時間に校庭でお花見しましたよね。それで萩原朔太郎の『桜』の詩を先生が読んで」  先生が腕を組んで考えるような顔をする。 「『われも桜の木の下に立ちみたれども わがこころはつめたくして 花びら散りおつるにも涙こぼるるのみ』という詩?」
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