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「ごめん。甘い物は得意じゃないんだ」
先生はそう言って、申し訳なさそうにケーキを一口分残した。
「先生、甘いもの好きだったんじゃないの? だって、賞味期限切れのチーズケーキ」
先生の頬がみるみる赤くなる。
「いや、その……あの時はつまり……なんというか」
言葉に詰まる先生を見て、私の為に食べてくれた事に気づいた。嬉しさが込みあがる。
「先生、ありがとう」
角を挟んだ隣に座る、先生の右肩に頭を乗せた。
先生が頭を撫でてくれる。
「希美ちゃん、一緒にいてくれてありがとう。こんなに楽しいクリスマス久しぶりだよ」
「私も先生と一緒で幸せ」
先生が手を握ってくれた。大きくて温かい手。幸せで胸がほかほかする。
「先生、来年のクリスマスも一緒にいよう。それで、ディズニーランド行こう。来年も再来年もずっと、先生と一緒にいたい」
「えっ」
先生がこっちを見た。
いつもみたいに穏やかに笑ってくれると思ったら、先生の顔は困ったように曇った。
「先生?」
「そろそろ片付けよう」
先生は急にキッチンの方に行った。それから何かを考え込むように黙ったままお皿を洗い続けた。
偶に、先生のそんな表情を見る事がある。私には言えない事があるのかもしれない。例えば恋人がいるとか。
クリスマスの日以来、先生に電話しても繋がらなくてなって、メールの返信も来なくなった。日ごとに会いたくなる。だけど会いには行かなかった。先生に恋人がいる事を知るのが怖かった。
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