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十月の少し冷たい風が頬を撫でる。柔らかな向かい風に逆らうように家の前の歩道をつき進む。
激しい怒りが体中を駆け巡っていた。
私の人生、後悔ばかり。子どもが産めなくなったと知った時も、離婚した時も後悔してた。
ケーキの箱を持ったまま住宅街を抜け、海浜大通りの交差点を渡って、稲毛海浜公園に向かった。
海浜公園の中には花のミュージアムとか、プールとか、マラソンのコースがあって、休日は楽しそうに歩く家族連れの姿を目にする。今日も楽し気な声が聞えて来て、避けるように公園を横切り、海の方に出た。
海まで出ると白い砂浜に目が留まる。子どもの頃から時々来た場所だったけど、砂浜の色が違う。そう言えば、最近変わったって母が言ってた。
ふかふかの白い砂浜を歩くと、砂浜の上に直接座る濃紺のスーツ姿の人が目についた。オレンジ色の夕陽に照らされた海をじっと眺めている横顔を見て、誰かに似ている気がする。
あっ……。
中学の時の先生!
確か、伊達巻きってあだ名の。
国語を教えてて、昔の稲毛が避暑地で森鴎外とか、教科書に載ってる文化人が訪れたと教えてくれたんだ。
先生の落ち着いた話し声が心地よくて、いつも授業は眠かった。だから、国語のテストは赤点ギリギリだった。
中学の時の記憶が鮮明によみがえってくる。
見れば見るほど眼鏡の横顔が先生に似ている。やっぱり先生かな?
声を掛けてみようか?
でも、卒業して二十年以上経つし。
担任だった訳じゃないし、私の事なんて覚えてないよね。それに人違いかもしれないし……。
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