桜の花が散ったあと

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「二十七で結婚して、仕事は辞めませんでした。初めて新規店舗の店長を任されたんです。仕事に没頭しました。子どもはいつでも産めるって思ってたんです。それで三十才になってからは子どもが欲しくて自然に任せてました。でも、三年経ってもできなくて、病院に行ったら、卵子が少なくなってて、妊娠しづらい体だってわかりました。卵子って年を取る毎に減るんですよ。二十代だったら自然妊娠する可能性があったと言われました」  スマホを持つ手が震えた。人生で一番悲しい出来事だった。 「体外受精とか、顕微授精とかもしたんですけどダメで。お金ばっかり無くなって。うまくいかなくて夫とケンカばかりで……。それで、夫の恋人に赤ちゃんが出来た事を知って、離婚したんです。傷ついたけど、夫を責められなかった。夫の子どもを産んであげられなかった私がいけないから。全部私が悪いから」  先生が何かを言おうと息をついた。遮るように「もう会いません」と言って電話を切った。  先生に子どもを産めない私を受け入れられないと言われるのが怖かった。夫と同じように他の女性の所に行く先生を見たくなかった。
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