桜の花が散ったあと

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 一時間後、大学病院に着いた。  教えてもらった病室まで行くと、先生の恋人だと思っていた人が出迎えてくれた。その人は姪御さんだった。  先生は今、検査中で電話があったら出といて欲しいと頼まれていたようだ。 「希美さんですか?」  姪御さんに名前を呼ばれてびっくりした。 「ありがとうございます。いつも叔父から話を聞いてます。叔父は膵臓がんで治療する気ないってずっと言ってたんです。でも、急に可能性があるなら生きたいって言い出して。そう思えたのは希美さんに会えたからだって。前はこれ以上、生きる理由がないって言ってたけど、希美さんと一緒にいたいから治すんだって治療頑張ってます。難しい手術も受けて、抗がん剤にも耐えてます。本当にありがとうございます」  姪御さんが深くお辞儀をした。  私の為に手術受けてくれたんだ。大事に思ってくれていたんだ。傷つくのが怖くて逃げ出した自分が情けない。先生はこんな私と一緒にいたいって思ってくれてたのに。  涙を堪えていると、姪御さんが先生のスマホを見せてくれた。待ち受け画面は桜の前で一緒に撮った写真が使われていた。  瞼の奥が熱くなる。  先生に会いたい。そう思った時、スライド式のドアが開いて、点滴スタンドを持った先生が入って来た。
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