桜の花が散ったあと

4/23
84人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 京葉線の稲毛海岸駅前の居酒屋に先生と入り、カウンター席に並んで座った。 「僕はもう五十才になるよ」  そう言って、先生は穏やかな表情で日本酒を注いでくれた。  先生のフサフサな前髪には少し白髪が混ざってるけど、四十代にも見える。面長の顔にはあの頃とは形の違う黒縁眼鏡をかけてて、鼻筋がすっきりしてるから眼鏡が似合って誠実そうな感じがする。 「栗原さんは三十八になるのか」  感慨深そうに先生が言った。  静かな声だけど、張りがあって聞きやすい。 「すっかりおばさんです」 「そんな事ないよ。可愛らしくて、まだ中学生に見える」  先生が笑った。  口元に薄く浮かんだシワが優しそうに見えた。 「中学生は言い過ぎですよ。まあ、童顔だから若くは見られますけど」  丸顔で、小柄だから未だに子どものように見えてしまう事がある。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!