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「ご結婚は?」
先生に訊かれる。
「バツイチです。一年前に離婚しまして。子どももおりません」
決まりが悪くて苦笑いを浮かべる。
「僕も同じ。十年前に離婚してね。子どもは生まれてすぐに亡くなって。今は気楽な独身だよ」
先生が笑った。
先生の境遇に親近感を感じる。
「それ、ケーキ?」
カウンターの上のケーキの箱を先生が見た。
「ええ、賞味期限の切れたチーズケーキです。気づいたらこれを持って家を飛び出してたんです」
「なんでケーキを持って海浜公園に?」
先生が不思議そうに言った。
「日々の積み重ねに疲れたというか。実家で母と二人暮らしなんですけど、いつも私を可哀そうな子みたいに見てる気がして疲れるんです。離婚して帰って来た私が悪いんですけど。それで、母がケーキを捨てようとしたのを見て、カーッとしてしまいまして。ケーキが自分と重なって見えたというか。ほら、若くは見えますが、私も賞味期限は切れてますから」
最後は笑って茶化した。
先生が眉頭を寄せて真面目な顔をする。
「泣きそうな顔して何言ってんの」
先生の手が伸びて、小さな女の子にするみたいに頭を撫でてくれる。
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