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「無理に笑う事はないよ。辛い時は辛いって言っていいんだよ」
同じ事を中学の時も言われた。
中二の時、上履きを無くした事があった。それは掃除中にゴミ箱の中から出て来た。真新しかった上履きは誰かが故意にかけた墨で真っ黒に染まっていた。
心臓を握りつぶされたみたいに痛かった。だけど、問題を大きくしたくなくて自分でやったと嘘をついた。
担任に「なんでそんな事をしたんだ」と何度も問い詰められ苦しかった。
誰もいない体育館裏で泣いてると、先生が来てくれた。誰にやられたか問い詰める事はなく、泣き止むまで一緒にいてくれた。その時、「辛い時は辛いって言っていいんだよ」と慰めてくれた。
国語の成績が良かった訳じゃないのに、先生は目立たない普通の生徒に優しくしてくれた。だから先生の事は覚えていたんだと、今さら思い出した。
こんな大事な事を忘れてた自分が情けない。しかも、まだ名前が思い出せない。話しながら漢字二文字が過るけど、その漢字がハッキリしない。先生は私の名前を覚えてたのに。
「先生、伊達巻きって呼ばれてましたよね。なんで伊達巻きだったんですか?」
名前がわからない事を誤魔化すように違う話題を振った。
先生が笑って、眼鏡を外す。
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