桜の花が散ったあと

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「ところで、それいい?」  先生がケーキの箱を指した。 「甘いものには目がなくてね」 「賞味期限切れてますよ」 「どれくらい?」 「五日です」  先生がいきなり腕を伸ばしてケーキの箱を取った。 「許容範囲」  眼鏡の奥の目と合うと、そう言って微笑んでくれた。  それからカウンターの奥の店主にケーキを食べる許可を取ってから、先生は一人分にカットされたチーズケーキを目の前で平らげた。  まさか本当に食べるとは思わなかったので心配になる。 「先生、本当に大丈夫?」 「美味しかったよ。ご馳走様」 「冷蔵庫に入ってましたけど、味が変だったりしません?」 「全然大丈夫」 「お腹が痛くなるかもしれませんよ」 「賞味期限は美味しく食べられる期限だから、切れてても全然大丈夫。むしろそれぐらいの方がうまいよ」  大らかに笑った先生を見て、目尻にちょっぴり涙が滲んだ。  私はまだ大丈夫なんだって言ってもらえた気がして、心が軽くなった。
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