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お礼にご馳走しようと思ったら、財布を忘れて来た事に気づいた。
家を出た時、ケーキの箱しか持ってなかった。
「先生、あの、財布を取りに帰ってもいいでしょうか?」
先生が快活な声でわははと笑った。
「今夜は僕の奢り。僕が誘ったんだし。教え子に再会して本当に嬉しいんだよ」
「でも」
「ケーキもご馳走になったしね」
「じゃあ、次は私が出しますから」
「楽しみにしてるよ」
先生は上山春希という名前である事を帰ってから見た卒業アルバムで思い出した。
先生も稲毛に住んでて、一週間後の日曜日、海浜公園で待ち合わせた。
二度目に会った先生は紺色のジャケットに黒いジーパン姿だった。スラリと背の高い先生の体型に似合ってる。
私は先週、ジーパンにパーカーという軽装だったので、今週は失礼のないように、大人の女性に見える服装を心がけた。秋をイメージした紅葉色のワンピースの上に、明るいグレーのロングカーディガンを合わせて、女性らしい上品な感じに仕上げた。お化粧もきちんとして、肩まである髪はハーフアップにした。
家で支度をしながら、仕事に行く時とは違うワクワクした気持ちになった。
こんな風に人と会う為にお洒落をしたのは離婚してから初めてだった。
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