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――すごい。
それしか言葉が出ないくらい、四海奇貨館はすごかった。
古代中国に造られた、神話上の怪物を図案化した複雑な文様で飾られた青銅器。
唐代から宋代に作られた、青磁や白磁といった陶磁器。
明代の鮮やかで複雑な機織りや刺繍の技術を駆使した織物。
清代に作られた美しい玉の工芸品に、高級木材の彫刻や植物の種を用いた果核彫刻。
多くの高名な画家が生まれた宋代の山水画や花鳥画……。
今までに訪れた博物館の中で、これほど一級の文物が揃って展示された所はあっただろうか。
歴代の皇帝が所有していたものもあるそうで、それぞれの文物の価値もさながら、皆、保存状態が素晴らしく良い。まるでその時代から時を止めて、そのまま持ってきたかのような美しさがあり、圧倒される。
四海奇貨館はどうなっているんだ。いや、さすが四海グループというべきなのか。
二時間ほどじっくり見学したが、結局一階の展示室を回るだけで終わってしまった。
興奮冷めやらぬまま、放心の態でロビーのソファに腰かける晩霞に、周は悪戯が成功したような笑みを見せてくる。
「どうです、すごいでしょう」
「ええ、本当に……あの、私で大丈夫でしょうか。こんなに、高価というか、歴史的にも芸術的にも価値のあるものばかりで……」
国立博物館にあってもおかしくないレベルの文物が揃えられた、四海奇貨館。
大学を出たばかりの――しかもことごとく就活に失敗してきた――晩霞が勤めるのは、明らかに力量不足ではないか。
『私設』だからとどこか少し軽い気持ちでいた晩霞は、今さらながら身の竦む思いをする。どれか一つでも破損させてしまったらと考えるだけで恐ろしい。
不安げに顔を曇らせる晩霞に、周はにこりと笑みを見せる。
「もちろんです。だからあなたを選んだのですよ、朱晩霞さん」
眼鏡の奥の目が、柔らかく晩霞を見やる。
「誰だって『最初』はあります。最初からすべてできるものはいません。失敗を重ねて、過去の自分を反省することで人は成長するものでしょう?」
「……はい」
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