第一話 呪妃転生

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「それにですね、ここだけの話ですが、収蔵品には高額の保険が掛けられていますから。万が一壊したとしても大丈夫……なのですが、こんなに貴重で美しく素晴らしいもの達を壊すのはとてもとても忍びない。十分に気を付けて下さいね」  冗談交じりに、しかしきっちりと周は釘を刺す。晩霞も気を引き締めて、真剣に頷き返した。 「……それにしても、本当に保存状態が良いものばかりですね」 「ええ、そうでしょう? 展示室には出していませんが、保管室には国宝レベルの、まだどこにも公開されていない書物がたくさんあるんですよ。研究のしがいもあります。ここで初めて見ることができたものも多くて……」  王教授の後輩だけあって、歴史の話となると周はきらきらと目を輝かせる。  しばらく周と歓談していれば、視界の端でちらちらと動くものが気になった。視線をやると、天井に設置された黒い監視カメラが動いている。 「ああ、人の動きに反応して動くようになっているんです」  周が軽く手を振ると、確かにカメラが呼応するように動いた。そういえば晩霞が建物の敷地に入る際にも、門の監視カメラが反応していた。  ロビーの天井には、見える範囲でも四個のカメラが付いている。同じように、展示室や保管室にも付いているようだ。 「四海奇貨館は価値の高い収蔵品が多いので、セキュリティには力を入れてあります。四海グループにはセキュリティ部門があって、オフィスの警備やマンションの防犯システム、情報セキュリティも独自に開発しているんですよ。ここにも、グループから派遣された警備員が常駐しており、周囲の柵だけでなく、林の中にも監視システムがあります。異常があれば五分以内に他の警備員も駆け付けるようになっているんです」 「なるほど……」  警備は厳重のようだが、それならこんな人気のない場所ではなく、もっと警備しやすい場所――それこそ四海グループのオフィスビルの中など、人目が多い所に作ればよかっただろうに。  晩霞が頭の片隅で思っていると、周が思い出したように手を打った。 「ああ、そうだ。警備の関係もあって、建物に入るにはパスカードと生体認証が必要です。今日は私がロックを解除しましたが、朱さんの登録もしないといけませんね。まずは生体認証……掌紋と顔を登録してもらいます。パスカードは後日、スタッフカードと一緒に渡しますので、しばらくは予備のものを使って下さい。こちらは絶対に無くさないようにして下さいね」 「わかりました」  晩霞は周に連れられ、受付の方へと向かう。その後ろ姿を、監視カメラの黒いレンズが小さな駆動音を立てて捉えていた。
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