12人が本棚に入れています
本棚に追加
***
照明が落とされた室内を、大きなモニターの光が淡く照らす。
モニターの前にいるのは四人の人物だ。
パソコンチェアにだらしなく座って、甘いカフェオレを啜りながら複数の画面を切り替える者。
中央のデスクに浅く腰かけて腕を組み、眉間に深い皺を寄せてモニターを睨みつける者。
薄暗い中で手元のタブレットの文書を読みながら、時折モニターに目を向ける者。
そして、瞬きもせずにモニターを見つめて立ち尽くす者。
彼らの視線は、モニターに映る一人の女性に向けられていた。
まっすぐな黒髪を一つにまとめた、いかにも社会に出たばかりの生真面目で少し緊張した表情を浮かべる若い女性だ。
細身で色白、円らな黒い目に小作りの顔と整った容貌はしているものの、とびきりの美人ではない。人混みに紛れればすぐに分からなくなりそうな、ごく普通の――悪く言えば、地味な外見をしている。
幾つもの角度から撮られた彼女の映像を見ながら、眉間に皺を寄せる男はその皺をさらに深めて言う。
「……本当に、あの娘が『奴』なのか?」
「そうだよー」
カフェオレのストローを咥えながら、男がマウスを操作して別の画面に女性のプロフィールを出す。
「大学で『僕達』のことを調べていたんだ。ネット検索履歴、図書館や研究棟のカメラ映像を追跡して、彼女だと特定しましたー」
「ただの偶然じゃないのか?」
「偶然で僕達のうちの三人の名前を揃って調べる? しかも複数回ね。懐かしい国名も出てきたし、『呪妃』の検索する人なんて初めてだよ。いやあ、ここ数十年、ネットワークに常に網張っててよかったなあ~。あ、ネットだけにね」
「おい、ふざけるのも大概に……」
「彼が調べたのですから、間違いはないでしょう」
眉間どころか青筋を立てた男に対し、タブレットの文書を読んでいた男が顔を上げる。
「うちのセキュリティシステムの顧問で、『四海八荒』の開発者なんですから。ネット関連においては、彼に口出しできませんよ」
「……」
やんわりと窘められて、眉間の皺の男は鼻を鳴らしながら口を閉じた。
静かになった室内で書類の男が言葉を続ける。
「それに、彼女が本物かどうかを確認するのは、私達よりも適した人物がいるでしょう。……そうですよね、殿下」
声を掛けられたのは、黙ったままモニターを見つめている男だ。
男達の中で、一番若く見える青年だ。少年の域を抜けて青年に入ったばかりの年頃か、緩く波打った髪が縁取る白い頰の輪郭は若々しい。
青年は大きな切れ長の目をゆっくりと瞬かせた。とろりと煮詰まった蜜のような色の瞳に、モニターの女性の姿が写り込む。
「ああ、やっと……」
感極まる呟きは眼差しと同じように甘く、どこか夢を見ているような響きがあった。
形の良い唇が、声にならない言葉を紡ぐ。
見つけた、我が君――と。
最初のコメントを投稿しよう!