第二話 邂逅

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「晩霞ちゃん、今日のお昼どうする? 広場のキッチンカー、今日からオープンする店があるのよ。ケバブのお店なんだけど、行ってみない?」 「あっ、はい、行きます」  初日にお昼ご飯をどうするか悩んでいた時、陶に誘われて以来、緑地公園の広場に出店しているキッチンカーに買いに行くようになった。  周館長や林主任も一緒に行ったり、二人からお使いを頼まれたりすることもある。そのまま公園のベンチで食べることもあれば、持ち帰って休憩室でそれぞれ食べたりと、その日の気分によって変えていた。  小さなバッグにスマホを入れて、新しい物好きな林主任からケバブのお使いを頼まれた晩霞は、陶と一緒に外に出た。  勤めて一週間になるが、敷地を囲む檻のような鉄柵を出入りする時は、何だか緊張してしまう。前世で檻に入れられていたせいかもしれない。  門を通り抜け、高い鉄柵の圧迫感が無くなって、ようやくほっとする。  隣を歩く陶は慣れたもので、「あれ、動物園の檻みたいよねぇ」と言ってくるので、心を読まれたかと内心でぎょっとした。 「そ……そうですよね。やっぱり奇貨館にあるのが貴重なものばかりだから、警備も厳重になるんですね」 「そうねぇ。でも、あの柵ができたの三年前なのよ。それまでは建物だけで……あ、もちろん警備はしっかりしてたんだけれどね。ほら、お偉いさんの接待だけじゃなくて、慈善事業で校外学習に開放するようになって、来た学生がSNSに勝手に画像をアップしちゃって。最近の若い子って、すぐにそういうの投稿しちゃうじゃない、怖いわよねぇ。それで少し騒ぎになった時期もあってねぇ。あ、もちろん今はちゃんと投稿は削除されているらしいわ。  ま、それを機に金持ちのコレクターが来たり、ちょっと怪しい感じの連中も来たりするようになっちゃったのよ。たいていは警備員に捕まったり、追い返されたりしてるけどね。あ、そうそう、セキュリティ部門の部長さんが若くてイケメンなのよー、いつも怖い顔してるけど」  晩霞の動揺など気にせずに、陶はぺらぺらと話し続ける。  陶は四海奇貨館では十年以上働く一番の古株であり、情報通の彼女は話のネタに尽きない。名前には『静』と付いているが、おしゃべり好きなのだ。  陶からの情報で、周館長は三年前に別の博物館から引き抜かれてきただとか、林主任は愛妻家で毎週必ず花を買って帰っているだとか、上司や先輩の内情を図らずも知ることになった。
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