第二話 邂逅

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 凌宇は、今の王の二番目の息子の名だ。  彼はいわゆる断袖(だんしゅう)――男色の気がある。特に、年端もいかない中性的で華奢な少年、かつ、見目の良い者を好んでいた。  しかも性質(たち)の悪いことに、凌宇には嗜虐趣味があった。  人買いに売られた者や、戦争で親や里を無くし奴隷となった者など、見目麗しい子を集めては己の宮の奥にある隠し部屋で思うままに嬲り、心身共に痛めつけた。多くの少年達が犠牲となり、その数は百を超えると密やかに囁かれている。  男達の足元で怯える子供もまた、十歳くらいだろうか。未発達で華奢な体つきをしている。怪我や血で汚れてはいるものの、よく見れば襟や袖から覗く肌は白く滑らかだ。長い睫毛に縁どられた大きな蜜色の目は輝き、少女のように可憐で繊細な風貌をしていた。  目を潤ませて怯える表情は保護欲を湧かせる一方で、被虐心を掻き立てる。  なるほど、これはたしかに凌宇の好みに合うことだろう。  呪妃はここでまた、気まぐれを起こした。  何しろ、彼女は凌宇が大嫌いだったのだ。  赤い唇を、にやりと悪辣に歪めてみせる。 「……ちょうどよい。先ほど陛下に頼まれた呪詛の件で、子供の血が必要になった。それをもらおう」 「は!? ですが……」 「ならばお前の子を寄越してもらおうか? いるだろう、四人……いや、二日前に五人目が産まれたか」 「なっ……なぜ、それを……」 「子供なら誰でもいいが、特に赤子はよいな。死と生の狭間にある命だ。呪詛に必要であると陛下に頼むゆえ、お前の名を言え」  呪妃が淡々と言うと、高官はざっと血の気を引かせる。  狼狽えた高官が部下達を見やるが、彼らは火の粉が飛ぶのを恐れ、呪妃が所望する哀れな子供から距離を取った。  部下達は逃げ腰なものの、高官は「いや、しかし、凌宇殿下が何と仰るか……」と諦めが悪い。その様子に、呪妃は袖を一振りする。  直後、呪妃の両隣に大柄の武人が現れた。古めかしい甲冑に身を包んだ彼らの顔には、赤黒い文様の書かれた白い布が垂らされている。無言で佇む武人は呪術で作った式神で、『紙人』と呼ばれるものだった。
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