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呪妃の呪術と不気味な紙人を目の当たりにして、とうとう高官はふくよかな頬を引き攣らせ、愛想笑いを浮かべて答える。
「ど……どうぞ、この子供をお納めください、呪妃様。我らが陛下のためでございますので……」
そうして、小太りの高官は男達を引き連れてそそくさとその場を去っていった。
残された子供は呆然とした様子で、逃げる男達の後ろ姿を見ている。だが、はっと我に返り、座り込んだままじりじりと後ずさった。
傷付いて両手を封じられながらもなお逃走の意思を見せる子供に、呪妃は冷たく告げる。
「逃げても構わんが、どうせあやつらに捕まるぞ。嬲りものにされたいのなら行け」
「……」
呪妃の言葉に子供は顔を強張らせ、後ずさるのを止めた。大人しくなった子供をよそに、呪妃は袖を振って紙人を元の紙へと戻し、懐に入れる。
子供は戸惑ったままその様子を見ていたが、やがて小さく口を開いた。
「……私を殺すのですか?」
「なぜ私がそのようなことをせねばならぬ」
「で、ですが、先ほど呪詛に使うと仰って……」
「あれは戯言。人間を使うのは面倒だから滅多にせぬ」
淡々と返す呪妃に子供は大きな目を瞬かせた。うろうろと視線をさ迷わせた後、意を決したように尋ねてくる。
「では……あなたは、私を助けて下さったのですか?」
「……」
思わぬ問いかけに、呪妃は仮面の下で思わず目を瞠る。
子供の蜜色の目は、まっすぐに呪妃を見つめていた。自分に対して恐れを抱かぬ目に、呪妃はわずかに動揺してしまう。誰かと視線を合わすのが久しいせいもあったのだろう。
あるいは、穢れの無い無垢な瞳が映す己の姿に怯んだのか。
呪妃はすぐに気を取り直して、動揺を掻き消すように鼻で笑う。
「……能天気な子供だ。お前がどうなろうと知ったことか」
呪妃はただ、凌宇に嫌がらせをしたかっただけだ。
そのために、この子供を使った。それだけだ。
地面に座り込んだ怪我だらけの子供に見向きもせずに、呪妃は自分の宮へ戻るために歩き出す。
「まっ、待って……待って下さい……!」
子供の声を無視して歩き続ける呪妃の耳に、後ろからついて来る小さな足音が届いてきたのは間もないことだった。
そうして、呪妃の住む宮に一人の下僕が居座るようになった――。
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