第二話 邂逅

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 人が少ないのは、皆がここを恐れて近づかないせいである。恐ろしい呪術を使う呪妃の下で、侍女や下男は次々に辞めていった。残っているのは、他の妃の宮から追い出されたり罰せられたりした者ばかりで、最低限の人数しかいない。もっとも、彼らも呪妃の側に近づくことはなく、屋敷の端の部屋で息を潜め、呪妃がいない間を見計らって日々の仕事を済ませていた。  そこに一人の下僕が加わったのは、十日前のことだ。  呪妃が気まぐれで助けた、美しい少年である。  もっとも、助けたというよりは、色好みの凌宇殿下への嫌がらせで少年を奪い取っただけのこと。そして奪ったものの、その後のことを呪妃は考えていなかった。  勝手にどこかで野垂れ死んでくれればよかったが、少年はしつこく呪妃の後を追いかけてきて、ついには後宮にある黒天宮までついてこようとした。  後宮は王以外の男子禁制であり、少年が入ることはできない。だが、『どうかお側に仕えさせて下さい』と縋る少年に、呪妃は溜息を付く。  ひとまず姿を眩ます術で少年を黒天宮まで連れて来た後、彼に投げ渡したのは粗末な襦裙(じゅくん)だ。少年は訝しげにそれを見つめた。 『これは……』 『それを着て化粧をして、常に女として振舞い、私に仕えることができるか?』 『……』 『あるいは、宦官になるかだな。それがここに残る条件だ。……わかっておろう。ここは本来、王以外の男は入れぬ。お前のような者が居る場所ではない』  呪妃の言葉に少年は目を瞠り、さっと頬に朱を走らせる。  女装して女として振舞うことも、男の証を斬り落とされることも、どちらもさぞ屈辱的なことだろう。突き付けられた選びようのない選択に少年は俯いて、乾いた唇を噛みしめた。  ……これで諦めるだろうか。そうしたら、先ほど使った姿消しの術を使ってやって、王宮の外に出してやってもいい。  気まぐれで手を出した責任くらいは取ってやろうと、呪妃は珍しく寛大になっていたのだが――。 『……わかりました。それでは、『女』としてあなたにお仕えいたします』  顔を上げてきっぱりと答えた少年に、呪妃は再び呆気に取られることになった。
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