第二話 邂逅

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 そうして少年は、今も呪妃の目の前に居る。  未発達のほっそりとした身体は多少骨ばってはいるが、襦裙を身に付けて長い髪を二つに結い上げ、ほんのりと白粉をした姿は、素材がいいだけに美少女にしか見えなかった。  もっとも、年が長じてくればそうもいかない。五年もすれば傾国の美女になるどころか、身体つきは男のものへと代わって、いくら美しくとも女装姿は滑稽に映ることだろう。いっそ強制的に宦官にした方が少年のためであったかもしれない。  早く諦めて出て行けばいいものを、と他人事のように思いながら、呪妃は少年と顔を合わせる度に皮肉を言っていた。  それに対し、少年はいつも困ったように眉を下げる。ぐずぐずと泣き出すこともなく、どこか大人びた笑みを幼い顔に浮かべた。 「仕方ありません。呪妃さまが仰られたのですから」  彼の柔らかな苦笑に傷付いた様子は無く、呪妃の言葉がまったく効いていないようだ。  終始この調子で恐れる様子を見せない少年は、すっかり呪妃の側仕えとなっている。他の者が呪妃に近づかないせいもあっただろう。呪妃を恩人と思い込んで、その恩を返すべく健気に仕えていた。  鬱陶しく思う反面、なかなか便利ではあった。  朝夕の身支度や食事の用意など、少年は甲斐甲斐しく呪妃の身の回りの世話をする。  元々、身支度はいつも一人で行っていた。後宮に入るまでは身の回りのことは自分でしていたし、何なら人に仕える身であったから、特に不便と思うことはなかった。  むしろ、後宮に入ったばかりの頃に侍女に取り囲まれ、数人がかりで着替えや化粧をさせられたり、庭を歩くだけなのにまるで行進のように付いて来られたりと、常に側にいられる方が煩わしく感じていたくらいだ。多くの使用人達が去り、残った者も近づいて来ない、一人で過ごす今の方がいっそ気楽であった。  とはいえ、少し手を洗いたい時や茶が飲みたくなった時、自分で用意するのは少し手間だ。それを今は少年が率先して行っている。さらには、呪妃を恐れる他の使用人達との連絡係のようなこともしており、呪妃よりも彼らに重宝されているようである。  着々と黒天宮で居場所を作る少年が、机に水差しと盥を置く。どうぞ、と促されて呪妃は溜息をつきながら起き上がり、寝台から降りた。 「おはようございます、呪妃さま」  改めて挨拶をしてくる少年――小華は、呪妃がつけた名の通り、花が綻ぶように微笑んだ。
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