第二話 邂逅

17/31

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 *** 「小朱! 奇遇ですね」  公園の入り口でばったりと出会ったのは、楚天華だ。  満開の花すら霞む美貌を持つ青年が、花も恥じらう麗しい笑みを浮かべる様に、今朝見たばかりの夢を思い出してしまった。  晩霞は頬が引き攣りそうになるのを堪えつつ挨拶をする。 「お……おはようございます」 「おはようございます」  笑顔で返してくる天華の声と顔が、小華のものと重なった。  いかん、重症だ。ふるりと頭を振って残像を飛ばそうとするが、そんな晩霞の様子に天華が怪訝そうに眉を顰める。 「大丈夫ですか? 顔色が少し悪いようですが……」 「あ……ええ、大丈夫です。少し寝不足なだけで」  嘘だ。昨日はあれからすぐに寝付いて、たっぷり睡眠をとれていた。  予想していた夢見の悪さも無くて、自分でも少なからず驚いた。前世の記憶の一場面を切り取った夢はむしろ穏やかなもので、起きた時に少しだけ勿体なく思ったくらいだ。小華は本当に美少年だったなあ、と呑気な感想さえ抱いた。  そして、そんな小華が成長した姿にそっくりな天華が、夢の中と同じように心配げに晩霞を見つめてくる。 「体調には気を付けて下さいね。まだ日中は暑いですし……。そうだ、よかったら今日のお昼ご飯、一緒に行きませんか? 近くに美味しい薬膳を出す店があるんです。夏バテにも効く、季節限定のランチがあって。体調に合わせた薬草茶も調合してくれますよ」  にこにこと誘ってくる天華に、晩霞は断り文句を選びつつ口を開く。 「あの、お誘いはありがたいのですが、楚先輩もお忙しいのでは……」 「今回の企画展の件で、しばらく麗城市に滞在することになりました。時間も余裕がありますし、久しぶりに近くの店をいろいろと回ってみたくて。一人では寂しいので、付き合ってもらえたら嬉しいです」 「……」  断りづらい誘い方をしてくる。しかも「そうだ、奇貨館の皆も誘って行きましょうか」と晩霞の警戒を解く台詞も付け足した。晩霞は渋々頷く。 「……はい、わかりました」 「よかった。お昼が楽しみです」  そう言って微笑むと、天華は当然のように晩霞の隣に並んで歩き始める。  朝の公園は人が少ないが、スタイル抜群の美貌の青年が颯爽と歩く姿に、人の目がちらちらと向く。ジョギング中の若い女性や通学中の学生達、散歩中の老夫婦など、老若男女問わず一様に天華を二度見、三度見していた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加