第二話 邂逅

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 注目される彼と、とばっちりで突き刺さってくる視線から逃れたくて、晩霞は歩く速度をそっと緩める。少し距離を取ったことでようやく一息付けることができ、斜め後ろから改めて天華を見やった。  天華はネイビーのポロシャツに白い麻のアンクルパンツ、歩きやすいスニーカーというカジュアルな恰好をしていて、昨日よりもだいぶラフな雰囲気だ。  プラタナスの梢を揺らす風が、彼の短い髪を揺らしていた。何となく襟足を見つめていると、ざあっと葉擦れの音が大きくなり、強い風が吹きつけてくる。  咄嗟に目を瞑り、開いた晩霞の目の前を、風になびく長い髪が横切った。  緩やかに波打った長い黒髪が、木漏れ日を反射している。編まれた髪の一房が、明るい鳶色に艶めいて光った。 「っ……」  驚いて瞬きをした後には、短く刈られた襟足とシャツの襟が視界に映る。  ……今のは幻なのだろうか。それとも、夢の続きを引きずっているのか。  身体は強張り、知らず息を詰めていた。立ち止まった晩霞を、先を進んでいた天華が振り返る。 「小朱? どうかしましたか」 「……何でもありません」  息を吐いて、胸のつかえをかき消すように答えると、天華はまた心配そうな表情を見せる。それに作った笑みを返して「それより早く行きましょう」と促した。  四海奇貨館を囲む檻、もとい鉄柵が見えた時は、晩霞は珍しくほっと安心してしまった。
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