第二話 邂逅

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 企画展の準備は、学生時代の実習でも行ったことがある。  テーマを決め、展示する資料を選定し、展示の構成を考え、予算やスケジュールを立て、掲示用の資料を準備し、展示して開催に至る。  流れはシンプルだが、外部への後援や出品の交渉、予算の計上と調整、掲示するパネルに載せるキャプション(説明文)作成のための調査研究、図録やポスター作りのための写真撮影から印刷、券や販売用のグッズを外部へ依頼して調整を繰り返し……と、実施に至るまでの下準備は複雑で手間暇が掛かる。  テーマを決めてから開催に至るまで、大きなものでは数年掛かることが多いそうだ。実習でも、一年をかけて行ったものだ。  もっとも、四海奇貨館で行われる今回の企画展は、すでにテーマも展示する資料も決まっている。外部への後援や出品の交渉は無く、予算は楚天華がいれば問題なく通る。広報や販売は行わないので、ちらしやポスター、グッズや図録も作らなくていい。  晩霞達が行うのは、展示会場のレイアウト、展示物のキャプションやパネルの作成、来場者用の簡単なパンフレットの作成がメインだった。  準備期間は二か月と短いが、外部とのやり取りが無い分負担は少なく、通常の業務も普通の博物館に比べれば少ないので、企画展に力を入れることができる。  だが、初めてで、しかも展示の一部を任されることになった晩霞には不安の種が多い。実習のおかげで流れは知っているが、学生気分でやっていた時とは違う。  私設博物館ながら、収蔵品は超一級の四海奇貨館。心せねばと、晩霞は自分に割り当てられた展示のシナリオ案を作った。  展示には、テーマに沿ったストーリーが必要だ。入り口から出口まで順路に沿って進む見学者が、展示の説明を順番に追い、テーマを理解できるように工夫する。そのためのシナリオを作って、会場のレイアウトを決めていくのだ。  晩霞が割り当てられたのは、五代十国時代の『十国』の方だ。林主任と一緒に担当する。  五代十国時代は、唐の滅亡から北宋の成立までの間に起きた、華北・中原を統治した五つの王朝(五代)と、その周囲の地域を支配した地方政権(十国)が興亡した時代である。  五つの王朝は後梁・後唐・後晋・後漢・後周、十国は前蜀・後蜀・呉・南唐・荊南(けいなん)・呉越・(びん)・楚・南漢・北漢とされている。
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