第二話 邂逅

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 展示会では、五代がメインになる。文物や資料も多く、五十年の間に様々な者が玉座を求め、奪い奪われていく波乱万丈な歴史はストーリー性も見応えもある。  だが、晩霞は十国の方に興味があった。広い大陸にあった国々は、土地土地で文化や産業が大きく違う。  最初は、前世の自分がいた国と近しい文化を調べるのが目的だったものの、調べれば自分の知らないことが多く出てきて、面白かったのだ。  当時の自分ももっと外に目を向けるべきだったのかもしれない……と考えそうになり、ふるふると頭を振って、パソコンに向き直る。  ひとまず、十国の位置関係を地図で示し、年代を年表にまとめるのは必須だ。  今回掲示する展示物は、南唐の物が多いようだ。南唐は江南に割拠した国で、文化的・経済的に繁栄し、十国の中では最大の勢力を誇っていた。戦乱が相次いでいた華北に住んでいた文化人達が南方に避難し、彼らの避難の受け皿となった南唐は、文化を大いに発展させたのだ。  ならば南唐をメインに……いや、一番南にあった南漢も捨てがたい。  建国者である劉隠(りゅう いん)の遠祖がアラブ系という説は何ともドラマチックだし、南海貿易で巨額の利益を得て造られた王宮は豪華絢爛。  また、唐の時代に権力争いに敗れ、この地に左遷された官僚達の子孫や戦乱から逃れてきた人士を積極的に政治に取り入れ、軍人主導ではなく文官優越の比較的平穏な治世を行った。のちに宦官が重用され、当時の国民の成人男性の一割近くが宦官となる状況になったことで、人心は乖離し、後に滅びることになる。  ……ひとまず各国の要綱をまとめて、どの国をメインにするかは林主任に相談しよう。  そう決めて、晩霞はうんと伸びをする。  晩霞がいるのは、三階の保管室だ。作業やミーティングに使う大きなデスクがあり、そこにノートパソコンと資料を広げていた。少し離れた場所には林主任もいて、晩霞と同じように作業をしている。  昼食後からずっと作業をしており、もう十五時を回っている。休憩ついでにお茶でも淹れてこようと立ち上がった晩霞の鼻を、ふわりと爽やかな香りが擽った。
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