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「これはおいしいですね。白茶ですか」
「ええ、白牡丹です。身体の熱を取り、夏バテに効くんですよ」
白牡丹は白茶に分類される。白茶は摘んだ後の茶葉を放置して自然に萎れさせ、ごく弱く発酵させた茶のことで、香りや味わいが爽やかで上品だ。
あまり茶に興味がなく、普段はティーバッグか、もっと手抜きでインスタントの粉を使っている晩霞だが、これは素直においしいと思った。もう少し飲みたいと思った矢先、空になった茶杯に天華が二杯目を注ぐ。
「あ……どうも、ありがとうございます」
「いいえ。よかったらこちらもいかがですか?」
天華が差し出した小さな入れ物の中には、ドライフルーツやナッツが入っている。その一角に、茶色い小さな焼き菓子もあった。気になって食べてみると、ほろっと崩れてピーナッツの風味が広がる。花生酥だ。
「塩気もあって、案外合うんです」
「……はい、おいしいです」
ピーナッツの風味がそれほど強くなく、塩気で引き立つ素朴な甘みとほろほろとした食感がいい。晩霞の好きな味だ。
思わず緩む口元を握った拳で隠すようにして食べていると、ふいに強い視線を感じた。天華が蜜色の目を軽く見開いて、こちらをじっと見ている。
わずかに顰められた眉に困惑の色が見えたので、もしや花生酥の欠片か何かが顔についているのかと、晩霞はこそこそと口元を拭った。これで取れたかと目線を上げれば、まだこちらを見ていた天華と目が合う。
「な、何でしょうか」
まだ何か付いているのだろうかと身構える晩霞だったが、天華はただ「お茶のお代わりは」と尋ねてくるだけだった。
言葉に甘えてお代わりし、ついでに花生酥をもう一個つまんだ晩霞は、目を伏せた天華が満足そうに薄く笑む様子に気づくことはなかった。
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