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重い荷物を持っていれば、代わりに持ってくれる。
部屋を出ようとすれば、ドアを開けてくれる。
道を歩くときにはさりげなく車道側に立って、晩霞が躓いて転んだとしてもすぐに支えられるよう傍らを歩く。
楚天華の行動は紳士的、レディーファーストと言っていいだろう。
それ以外にも、しょっちゅうランチ(しかも薬膳や健康志向料理の店)に誘われたり(いつの間にか支払いは済んでいる)、休憩時にはタイミング良くお茶を淹れてくれたり、晩霞の好きそうなお菓子を持ってきたり、急な雨の日には己の傘を差し出してきたりと、甲斐甲斐しく献身的だった。
そんな晩霞と天華の様子に、陶は最初のうちこそ「やっぱり、オーナーは晩霞ちゃんに気があるのよ!」とわくわくしていた。陶の好きな恋愛ドラマに出てくる、スパダリ御曹司と平凡OLの設定に重ねては、当の本人である晩霞よりも照れたりはしゃいだりしていたものだ。
『ねえねえ、何か進展はあった?』
『晩霞ちゃんはオーナーのことどう思ってるの?』
期待に満ちた目で陶に尋ねられても、晩霞は「何もありません」と答えるしかない。
そう、本当に何もないのだ。
かれこれ一ヶ月以上経つものの、晩霞と天華の間には何も起こらなかった。
保管室で手に触れられて以来、進展はまったくと言っていいほど無い。せいぜい、晩霞が遠慮したり断ったりすることを諦めて、天華の至れり尽くせりの世話を受け入れるようになったくらいである。
甘酸っぱい話の一つもないとあれば、陶の関心は次第に薄れていった。今は、新しく始まったブロマンス古装劇の魅力をたっぷりと語ってくるくらいだ。
陶の追及が無くなってほっとしたものの、もやもやとしたものは残った。
その正体を掴めぬまま日々を過ごし、企画展まで三週間を切った日のことであった。
「お先に失礼します、お疲れさまでした」
「お疲れさまです」
「お疲れさまー」
まだ残って作業をすると言う周館長と林主任に挨拶をして外に出ると、当然のごとく門のところで天華が待っていた。
十月に入り、日が沈むのが早くなった。しかも企画展が近づくにつれて残業することも増えている。公園内の外灯は少なく、道が暗いからと、天華が最寄り駅まで送ってくれるのが近頃の日課となっていた。最初に車で送迎しようとしたのを固辞したら、晩霞に合わせて電車通勤に変える徹底ぶりだ。
事務の陶は定時に帰り、周館長と林主任は晩霞よりも遅くまで残ることが多いから、駅までの道は必然的に天華と二人きりになってしまう。
一応、大丈夫だからと三度断った。そして三度とも押し負けた。穏やかそうに見えて、この男は強情だ。
諦めの境地で、晩霞は斜め前を歩く彼の後を大人しくついていった。
「足元に気をつけて下さいね。よかったら僕の腕を掴んでいいですから」
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