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「……またか……」
アラームの音に起こされた晩霞は、ベッドの上で寝転がったまま小さく呻った。
悪夢ではないが、夢見がいいというわけでもない。
薄れていたはずの記憶がどんどん鮮明になっていくのが、怖かった。
一つ色が鮮やかになれば、絵具が滲んで広がるように、くすんでいた景色は色を持ち始める。登場する人間は声を持ち、熱を放ち、感情がこちらにまで伝わってきそうなほど、明確になっていく。
それだけならまだいい。
だが、穏やかな日々が永遠に続かないことを晩霞は知っている。
この後に必ず訪れるのは、屈辱と絶望と苦痛と死。そして千年も続く地獄のような転生だ。
それすらも鮮明になって己の夢として現れたとき、自分は耐えられるのだろうか。
少しずつ、だがじりじりと確実に近づいてくる前世の悪夢の気配に、晩霞は悩むようになっていた。
頻繁に見るようになった夢の原因は、おそらく天華だ。彼の顔を見る度に、小華のことが、前世の記憶がちらつく。それが刺激となって、過去の記憶を呼び起こしているのかもしれない。
顔を合わせないようにしたいが、そうもいかない。何しろ楚天華は晩霞の上司であり、職場である四海奇貨館にいるのだから。
もっとも、企画展が終われば、こんなに毎日会うことも無くなるだろう。あと三週間の辛抱だと、晩霞は自分に言い聞かせ、のろのろと朝の支度を始めた。
だが、晩霞の憂鬱をよそに、その日、天華は朝から四海奇貨館に顔を出さなかった。
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