第一話 呪妃転生

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 晩霞はスマホ画面を通り越して遠い目をしてしまう。  皆、そんなに転生したり、やり直したりしたいのだろうか。  転生経験者としては、転生はもうこりごりだ。  死んですぐに人間に転生できる漫画の主人公達が心底羨ましい。晩霞が体験してきたのは、幾度も繰り返される地獄よりも恐ろしい日々。もう転生したくないと何度願ったことか。今の人生が終わった後に繰り返されるのも絶対に嫌だ。  晩霞が望むのは、今の人生を平穏に過ごすこと。  来世があるなら今のうちに善行を積んで、できるだけ穏やかな来世になるよう準備しておくことである。  そして転生以上に、過去へ戻ってのやり直しは御免だ。  漫画の中では、主人公達は皆うまくいって、自分を貶めた者達に復讐してスカッと爽快な展開になる。  だが、自分は絶対に過去に戻りたくないし、うまくやり直せる気がしない。  王を諫めて正道へ導くようにすればよかった?  他の者と協力して王を倒せばよかった?  あるいは、裏切る相手を先に殺して横道(おうどう)を貫けばよかったか?  例え『呪妃』と呼ばれ恐れられていても、結局はただの一人の人間で、神のような力があるわけでは決してなかった。自分が生き延びるために、ただただ破滅の一途をたどっただけだ。  ……『呪妃』なんて、二度となってたまるか。  止まった指の下で、暗くなったスマホの画面が晩霞の顔を写す。  黒い水面のごとき液晶に映るのは、己の険しい顔だ。今朝見た夢のせいだろう。久しぶりに前世のことを考えてしまっている。 (あー、やめやめ。無駄なことは考えない!)  気を取り直してスマホのロックを解除した矢先、目的の駅に着いてしまった。  結局続きを読むことはできず、コミックアプリを閉じた晩霞は、今度は地図のアプリを立ち上げたのだった。
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