第一話 呪妃転生

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 緑や白、青に紫色の上質の翡翠(ひすい)を、牡丹の花や小鳥をモチーフに精巧に彫り上げたそれらは美しく、見るからに高価なのが分かる。  ケースの台に使われている木材も、艶のある赤みがかった色が美しい。紫檀だろうか。  横目で見ながら通り過ぎ、ロビーの窓側にある応接スペースらしいソファセットを示され、晩霞は腰を下ろす。  少し待っていてくださいね、と周は入り口近くの受付へと引き返し、書類の入ったファイルやバインダーを持ってくる。晩霞もまた、鞄の中から採用通知書を取り出した。  両手で差し出すと、周は受け取って、さっと確認する。その後、通知書と共に、ファイルと分厚いバインダーを晩霞に渡してきた。  ファイルには入社説明と契約書関連の書類、バインダーの中には『四海グループ』のパンフレットや社史、広報誌、そして業務マニュアルが挟まれている。 「まずは弊社の説明を……と言いたいところですが、四海奇貨館(ここ)の業務内容はグループが展開する事業内容とだいぶ異なります。『奇貨』という名前の通り、四海グループが所有する珍しい宝物や美術品といった、歴史的、芸術的価値のある文物(ぶんぶつ)を収めた、私設の博物館です。元々は蒐集したものを保管するために造られましたが、この二十年ほどは賓客の接待や、近隣の学校、団体などの社会見学などで開放しています」  この辺りの説明は面接の際にも軽く聞いていたので、晩霞は頷きながら話を促す。 「ですので、ここでの業務は博物館とさほど変わりありません。朱さんには、来客の対応、展示物の管理や入れ替え、社会見学用の企画など、前任者が行っていた業務をそのまま引き継いでもらいます」 「はい、わかりました」 「一階と二階が展示室で、三階は保管室になります。二階には企画室があり、企画ごとに展示物を入れ替えます。展示室と保管室に、合わせておよそ五千点の収蔵物がありますが、四海グループの所有する文物は膨大で……実は、私もすべてを把握してはいません。時折、グループの会長一族の方がこちらに収蔵、展示する物の入れ替えに来られるので、その際に新しい者は登録証を作って管理します。登録証のナンバーはすでに一万を超えていますね」 「はあ……すごいですね」  思わず感嘆の声を上げると、周は悪戯っぽく笑む。 「ふふっ、数もすごいですが……ああ、これは実際に見た方が早いかもしれませんね。まずは、じっくりと見学して下さい」  周は立ち上がり、受付の奥にある事務室に晩霞の荷物を置かせた後、さっそく展示室に向かった。重厚な赤いビロードの扉を開きながら言う。 「では、あらためて。朱晩霞さん、ようこそ『四海奇貨館』へ」
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